解放 V

「記憶がないのであれば、なぜこんな所にいるのかわからないのもやむを得ない話ですね。流様、一体いつから記憶がないんですか?」
 一体いつからか? という麗の問いかけに、とりあえずは考えてみるものの、首を捻るばかりではっきりしたことは思い出せそうもなかった。
「わからないな」
 きっぱりと答える目の前の主に、青年は驚いたように目を丸くした。しかし、考えてみればわからないというのが正論なのかもしれない。
 流は薬物乱用で混沌とした日々を過ごし、いつの間にか中毒症状を起こして自我の喪失までしていたのだから。
「まるで駄目ですね、流様。貴方、薬物乱用で中毒症状を引き起こしていたんですよ。人間でしたらもうとっくに死んでいたでしょうね……」
 薬物という言葉に反応を示した流は、自分で思い返してみて確かに薬物摂取をしていたと思い出す。ただ、それがいつから中毒になり記憶がなくなったのかはわからないままだったが。
「……そうか。で、その中毒症状を引き起こして記憶がない間に、私は何かしたのだな?」
 中毒症状だけで牢屋に拘束されることもないだろう。それなら病院に連れて行かれることのほうが、よっぽど道理に合っている。
 流の推移はもちろん当たっていた。
「そうです。実にとんでもないことをしてくれましたよ流様。貴方は自我の喪失と共に、無意味に人を殺して歩いたんです。それこそ悪魔独特の本能である破壊衝動そのもののように」
「……私が、か?」
 深く頷く青年に、流は信じがたい事実を突きつけられ困惑の表情を浮かべた。
「このままでは、貴方の身が危険に晒されると同時に、人間は滅んでしまいます。放っておけば、これよがしと薬物を限度なく接種し、廃人になるのも目に見えていました。ですので僕の勝手な判断ではありましたがこちらに拘束させていただきました。どうかご無礼をお許し下さい」
 非を詫び、頭を下げた麗は自分の主の反応を伺う。これ以上のことは何も言わなくても目の前の男は賢い。学習能力もきちんと備わっている。
 一度やって自分の理に反するものだとわかれば、二度と同じ過ちは繰り返さない、そういう性格なのだ。
「すまなかった、麗。実に多大な迷惑を被ってしまったのだな」
 自分のやった愚かな行動に、どれだけ青年が心配して事実を揉み消しに飛躍したかと思うと謝っても謝りきれない。


[*←||→#]

4/9ページ

[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!