中毒者 ]T

 麗の手により没収された一本の他、内ポケットにあった煙草全てをテーブルに置いた流は、不服そうに向かえの男を見つめて口を開いた。
「私がいつどこで何をしようが私の自由ではないか。違うのか、麗?」
 開き直ったのか、ソファーにだらしなく背を預けた黒髪の青年は口を弧にして笑う。
「それは違います、流様。確かにいつどこで何をしようが流様の自由です。しかし自分を傷つけ、陥れるような真似など他の者が許しても僕が許しません。逃げてしまいたいほど耐え難く辛い事実があったとしても、薬に逃げてしまっては何の解決にもなりません」
「……」
 きっとこの青年がいなければ、流はこの先一生、立ち直ることは出来なかっただろう。
「僕は生涯、貴方にこの身を捧げた者です。流様、貴方が何者であろうと……たとえ世界を敵に回したとしても、この命尽きるまで僕の身心は貴方だけのものです。貴方がちゃんと生きてさえくれたら、僕はどんなことも出来ましょう。だから僕は貴方を生かす。僕よりも先に心を手放し、この世を去るなど断じて許しません」
 血色の瞳で麗を見つめていた流は、深い溜め息を一つ吐くと席を立ち上がる。向かった先は細い三日月が見える大きな窓際だ。
「麗、君の気持ちはよくわかった。私に更生してほしいと望むならば、私の望みを叶えてくれるな? 何、そんなに難しいことではないよ……」
 窓の縁に手を置き夜空を眺めていた流は、ガラスに写る麗の姿を捉えると一心にそれを見つめ、唇を持ち上げた。
「改心して頂けるのですね? わかりました。その望み、お受け致しましょう」
 窓際に立つ主を見て、こうも簡単に事が進んだことに麗は微笑を浮かべた。
「……言ったな、れい?」
 だが、その素直すぎる展開が異常事態だったと気付くには、あまりに遅すぎた。
 ヒールの音を響かせ、一歩一歩と近づいてくる流に麗は目を見張った。
 裂けそうなくらい開かれた唇から長い犬歯を覗かせ、黒髪によく映える赤い目は見開かれ、その中の縦型の瞳孔が獲物を狩る時と同様に散瞳しているのだ。
「流様!?」
 明らかに吸血衝動を助長しているその姿に、麗はソファーを立ち上がり迫る相手から後退した。
 どうして急にこんなことになるのか、さっぱり意味がわからない。さっきまでは正常に話をしていたはずだし、血を流しているわけでもなのにいきなり吸血衝動にかられるなどあり得ないのだ。


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あきゅろす。
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