中毒者 [

 無造作に置かれた無数の本、何かを走り書きしたノートや紙きれ、吸殻が溢れそうな灰皿、飲みかけの献血剤、着たのか着ていないのかわからない服、広いテーブルが訳もわからぬままに散らかっている。
「Dさん、奥の机見てもらえますか?」
 そう言いながらも、麗は整理整頓を兼ねながらテーブルを漁り始める。
「わかったよ」
 Dも言われたままに机に向かい、足場を掻き分ける。机も見事に散乱しており、これでは探すのに相当な時間がかかる。今更、面倒なことに関わってしまったと思うが、そんなことを言えるわけもなく、小さな溜め息を溢すと、辿り着いた机の前で引き戸を一斉に開けていった。
 二人がこの部屋の汚く散乱した物達を片付け、全ての有り処をくまなく探し終えたのは、それから有に五時間は過ぎていた頃だった。おそらく外も日が暮れていることだろう。部屋主が帰ってこない間にここまで出来たのには、ある意味尊敬すらする。
「これで全部ですね」
 整頓されたテーブルの上に並べられた薬とその道具の豊富な品々に、麗はともかくDも驚きを隠せないでいた。
「世界に存在する、ありとあらゆる薬がここで見れるとは思ってもいなかったよ」
 どこからどう拾い集めたかわからない薬を眺め、Dは一つの結晶柱を手に取ると、それを透かして見る。
「僕もこんなにあるとは思いませんでしたよ」
「……これは想像していた以上に危険だね。吸飲、経口、静脈注射、どれもやっている痕跡があるし、この薬の異様なまでの減り方……中毒になってる可能性もあるよ。更生させるなら早いうちがいい。悪魔種族には薬の致死量はないけれど、中毒症状は人間と同じくあり得る。主を失いたくなければ、廃人になるより早く手を打たないと手遅れになる。更生薬なら僕がここにある全部の薬を分析して作ってあげるから、ね? 更正させなよ」
 物珍しい結晶を見ながら、Dはふと話し相手に視線を送る。エメラルドグリーンの髪の青年は、悲観しているのか情けないほど目尻に涙を溜めていた。
「僕がもっとしっかり流様を見ていれば、こんなことをさせずに済んだのに……」
「やってしまったことは仕方がないよ。誰にだって現実から逃げたい時がある。たとえ、まやかしでも彼は幸福感を満たしたい……そうしなければこの先、生きていくのすら苦痛だったんじゃない? 愛という感情は度がすぎれば死に直結するものだから、死ななかっただけ良しとしてあげようじゃないか」


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