中毒者 X

 再びリラクゼーションルームに戻った麗は、うなだれるようにソファーへ座りこんだ。向かえに座ったDは、何があったのかと、興味はないにしろ聞くほかなかった。
「でさ、麗君。何があったわけ? 君がそんなに深刻そうな顔をするってことは、流君に余程のことがあったんでしょ? 話してみなよ」
 ちらりとテーブルの脇に置かれた薔薇の花束を見てから、視線を話し相手に戻したDは、ふと眼鏡を外して胸ポケットから目薬を取り出す。
「流様の様子がどうもおかしいんですよ。自分のことを俺と言ったり吸血すると言ったり……挙げ句の果てに、本来の自分は嘘つきで、本能や欲のままに生きる者だと、そう言ったんです。今さっきだって、吸血しに街へ行くと言って部屋を出たんですよ。明らかにおかしいです」
 淡々と喋る相手を見つめたDは、視線を外し、目薬を挿すために上を向く。全くくだらない悩み事に、溜め息すらつきたいほど白衣の男は呆れていたが、それを表面上に出しても意味がないことはわかっていた。
 考えればすぐにわかってしまうようなことを、どうして目の前の男はわからないのか、疑問に思うのも事実だった。
「麗君、僕が思うにね、流君は精神的大ダメージを受けているんだと思うよ。なんせ意図的にはないにせよ、この前の事件で仲間である僕達に危害を加え、我等が君主に腕をまるごと一本交換させる負傷を負わしたんだ。そして何より、恋仲の葵君には最も残酷かつグロテスクなやり方で瀕死の重症を負わした……まぁ、こんな事をしたんだし、自分のことを本能のままに生きると言うのも正論かもしれないよ。悪魔種族は吸血鬼であろうと破壊衝動や飢餓衝動、吸血衝動が付き物だ。脳の大半が欲求を占めるんだから、その衝動を今まで押さえ込んできた流君の精神的強さには感心してたよ。けど、この前の事件が免罪となっても、葵君と別れてしまった今は、何もかもどうでもよくなったんじゃない?」
 この前の事件とは麗もよく知っている、真新しい記憶だった。自分だって例外ではない。傷痕が残らないように処置はしたものの、流から受けた腹部の裂傷は、気を失うよりも壮絶な痛みを伴ってつけられたのだ。しかし、麗にとって重要なのはそのことではなかった。
「Dさん、流様が葵君と別れたというのは本当ですか?」
 目薬を差し、潤んだ瞳の主を見て麗は問う。


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あきゅろす。
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