再会の日 T

 あの雨の日以来、僕は利さんとは会ってない。当たり前に連絡先は知らないし、あんなことを言っておいて今さら会おうと思うほうがおかしいのだけれど。
 けど、どうしても確かめたいことや聞きたいことがあって、耳の端々に残った言葉を頼りに翌日から彼を捜し始めた。
「……利? 知らないね、そんな男。B/C? キング?……あぁ、知りたいのはその男のことか」
 この人はやっと捕まえた情報源だった。
 僕の身体を買った三十路手前の男は、休憩で借りたモーテルのベッドでゴロンと寝返りを打つと、ふかした煙草の煙を吐き出す。
「お前最近、ずっと調べてたのか? ここの街に住んでてあいつの名前知らないなんて、お前みたいな新米者だけだ」
 乱れた髪を後ろに流し、鍛えられた四肢を投げ捨てて笑ったこの人は、色素の薄い瞳でこっちを見ると一言言った。
「キングの名前聞いたら、みんな態度変わったろ? あの名前は禁句だ」
 人の名前が禁句になるなんてどこの国の話だろう。まぁ、ここの話だけど。
「利さん、僕の身体買いました。けど色々あって、何もしないままお金置いていなくなったんです」
「いくら?」
「十万」
 男は口笛を鳴らした。
「その十万、もう使い切ってまた身売りか?」
「違う」
「……ご足労なこった。俺ならその十万持ってトンズラだな」
 軽快に笑い、吐き出した煙で輪を作った男は煙草の火を消した。
「B/Cはな、ここの街を仕切ってるチームだ。んで、事実上キングは街の支配者――王様ってことだ」
 なんだか面白い話になってきたような気がする。彼がチーマーで王様で、事実上は支配者で、つまりは……
「事実上ってことは、まだ上にも?」
 彼が急に立ち上がったものだから、僕も慌て後を追う。バスタオルを手にお風呂場へ向かう姿を追って中へ入ると、真っ白な湯気が立ち込めていた。浴槽からはお湯が溢れ返っている。
「トップはジョーカーだ。まぁ、滅多にこっち来ないが、来たら来たらで厄介者だ」
 男の声がお風呂独特の反響音となって返ってきた。
 さっさとシャワーを浴びて湯舟に浸かるこの人は、加減も知らないように肩まで身を沈める。
 浴室が大洪水だ。
「トランプをモチーフにしてるの? じゃあ、中間のエースは?」
 僕もそろりと片足を湯につけて、温度の確認をすると中に飛び込んだ。
「うわ! お前、もっと静かに入れよ」
 これで浴室はノアの大洪水だ。


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