ただ時間ばかりが無駄に過ぎていって、ここでも利さんに嫌われてしまったのかと虚しい気持ちになった。まぁ、嫌ったのは僕のほうかもしれないけど。
もうどうしていいのかわからなくて、マンションの出入り口の横に腰を降ろし、暗くなった空をぼんやり眺めた。細い三日月が東の空から昇り始め、だんだんと寒さが押し寄せてくる。袖の中に冷えた指先を隠して、白く光る街灯を眺めていたけどそれもすぐに飽きた。
「……どうしよう」
知らず知らずのうちに独り言を呟いて、どこからか襲ってくる淋しさに悲しくなる。滲む視界が嫌で顔を伏せると、そのまま目を閉じた。
結局、我慢強くもない僕は利さんに会えるかもしれないという期待だけで野宿をして、気づいたら朝を迎えていた。
彼に会えなかったのはもちろんのこと、あの晩、通りかかった人は誰もいない。
なんだか期待外れになった結果にがっかりしたけど、会えたらラッキーって言われたんだし今日は運がなかったんだと思って重い腰を持ち上げる。
何階に住んでるかわからないけど、高いマンションを見上げて背を向けると、自分の住む場所へゆっくり帰宅を始めた。
僕がボロアパートに着いたのはそれから何時間経ったかわからないお昼前。
近場の道路脇に白いセダンが一台止まっていたけど、それ以外は何も変わりない。
やっと帰ってきた自分の住家を見て、今にも崩れ落ちそうな階段を上ると相変わらずギシギシ鳴る音が僕を出迎えた。そして、疲れた身体と睡魔を吹き飛ばすように、階段を上りきった僕の目に大きくて白いものが映し出される。
「……あ」
思わず素っ頓狂な声をあげたのは間違いなく驚いた証拠。それは向こうも同じだったみたで、お互いの声が同じタイミングで重なって空に反響した。
「どうしてここにいるの?」
僕の質問には答えず、部屋の前で腰を下ろしていた彼は慌てて指にあった煙草を消す。いつからいたのか、足元には相当な量の吸い殻が散らかっている。
「うん、お帰りネコちゃん。ずっと待ってたよ」
屈託のない笑顔でそう言われて、自然と僕の顔も笑顔になった。
「利さん、ずっと待ってたの?」
「まあね。ネコちゃんは気まぐれだからいつ帰ってくるかわかんないっしょ? 野宿しちゃった」
楽しそうに笑って立ち上がった利さんは、僕に向かって歩いてくると大きな手を差し出してくる。
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