火の灯ったシガリロを口に当て、空に吸い込まれる紫煙を眺めつつ横目で隣を盗み見れば、まだ口ごもる相手が両膝の間に両手を挟め、もじもじと不可思議な態度をとっている。
「ディートリッヒ、もしかすると君は、お手洗いに行きたいのかね?」
イザークは心の中で溜息を吐き出した。
酔っているとはいえ、ここまで憶測不可能な行動をとる姿に、より一段早く塔に帰りたいと願ってさえいる。
「――違うってば!」
激的に反論する顔は、怒っているのだろうか?
あまりにも不躾な言葉に、大きな溜息をわざとらしく吐いたディートリッヒは、今度こそと心に誓い再三の言葉を紡いだ。
「あのねイザーク……」
「何だね?」
間入れず返ってくる言葉にタイミングを見計らいながら、ディートリッヒはイザークへの一大告白を決心する。
「……僕、どうやら君が好きになったみたいなんだ!」
「…………」
イザークの口から、無言のままシガリロが落ちた。
驚きのあまり、ディートリッヒを見る目は点になり、何を言おうにも恥じらい顔を赤く染める相手に、何と言ってやったら良いのか言葉すら浮かばない。
「ディートリッヒ、君は今、何月だと思ってるのかな? 四月一日にはまだ程遠い二月……」
シガリロを持たないイザークに襲いかかったのは、怒声でも殴られる感覚でもなかった。
身を乗り上げ覆い被さったディートリッヒの顔がすぐ目の前にある。
端整な顔が側にあり、そこで初めて自分が唇を奪われていることに気付いたのだ。
容赦なく掴まれた肩に体重をかけられ、身体を動かすことすら叶わない。
虚しく虚空を彷徨う手で振り払うことも出来る筈なのに、それすらも出来なかった。
「好きなんだイザーク。こんな時じゃないと、恥ずかしくって言えやしない……」
唇を離した美麗な面持ちは、少しだけ困惑しているように視線を逸らす。そして、自分のしてしまったことに今更ながら後悔してしまう。
「ごめん……迷惑、だよね」
乗り上げた身を慌てて避けながら、ディートリッヒは溜息をつき、ベンチの隅にイザークと距離を置くように座った。
返事はない。
呆れるよりも、嫌われたのかもしれない。
一人身勝手な行動に、綺麗に整った顔は俯き、人知れず涙を零す。
それにすら隣人は気付いてはくれない。
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