愛欲 Y

「アイザックはいいの?」
「……はい?」
 掴まれた腕を引かれ、再び正面に立ち位置を変えたアイザックはカインのとんでもない発言に呆然とする。
「その、さ……いっつもいっつも僕ばっかりで、アイザックは大丈夫なのかな? って。僕だって子供じゃあないんだ、これに続きがあることくらいわかってるよ?」
 きゅっと掴む腕に少しの力を加え、何か必死に訴える姿に黒髪の男は微笑を浮かべる。
「我が君、私のことでしたらご心配なく」
「わかった。じゃあ言い方変えるよ。アイザックの……挿れて?」
 顔を赤らめ、そっぽを向いた青年は掴んだ手を離すと自分の膝の上で強く握る。よほどこのことを言うのが恥ずかしかったのか、青い瞳は涙で潤んでさえいる。
「我が君……」
「これは命令だよ。拒否権はないからね」
 絶対的主の命令となればもはや断ることなどできるはずもない。むしろ自分の気持ちを押さえて我が君を優先していただけに、青年の発言は好都合といったところか。
「……かしこまりました我が君」
 アイザックは手の動きを再開すると、石鹸を泡立てて出来た白い泡を手にカインの顔に自分の顔を近づける。
「できるだけやってみますが痛みを伴うかもしれませんよ?」
「大丈夫だよ。で、僕はどうすればいい?」
「そのままで結構です。こちらを向いて下さい我が君」
 いまだあちらを向いたままのカインが横目で男を見つめる。普段よく見慣れた顔だが、笑うことなど滅多にない唇を持ち上げる表情は物珍しいとも言えるだろう。
「我が君……」
 カインがアイザックの顔をちゃんと正面から見つめた時、間近にある顔が更に近づく。何をされるのかと驚きに目を見開いたカインは、それが深い口づけだったと唇を塞がれてから気付く。
「……んっ!」
 下唇を何度も吸われ、半開きになった口の中に舌を入れられると、自分の舌を絡み取る。水音をたてて離れた舌には銀色に光る糸を滴らせている。
「アイザック、もっとして……」
「かしこまりました」
 伝う糸を舌で断ち切り、再びカインの唇を塞いだアイザックは丹念に口内を舐め始める。ざらつく相手の舌をなぞり、唾液を啜って飲み込むときつく舌に吸いつく。
「っ、んぁ──!」
 最早、口づけとは言い難いものを受けてカインは息も途切れ途切れになる。しかしアイザックに舌を差し出されれば、自然とそれに自分の舌を巻き付けている。


[*←||→#]

6/7ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!