愛欲 X

 どこでどう覚えてきたのか、男の唇と舌使いは長い間生きてきたカインですら経験したことのない上出来な動きだ。
「……っ!」
 巧みな舌使いに目を細めるカインは、絡めた指で相手の手をきつく握る。背筋が反り返り、後ろに倒れていきそうなのを強い力で引っ張られ、なんとか座るという体勢を維持するが、そうすると今度は、開いた足がガクガク震えて股を閉じようとする。困ったことに、気を抜けば思いきり膝をつく男を挟み込みそうになるのだ。
「……あ、ダメ!」
 ビクンと勝手に震えあがる足が勢いよく閉じようとする。既に声をあげたところで言うことを聞く身体ではない。それをわかってか、アイザックは肘を折って脇を締めると、閉じようとする足を阻止する。
 二つの動作を器用に行いながら、男はひたすらに責める。ズズズッと音を立てながら吸われ、裏筋を舌がなぞる度に身体が反応を示す。ただ舐められ吸われているだけだというのに、この気持ち良さは一体なんなのか。股間に熱が集中するのを感じながらカインは一人身悶えた。
「あ……アイザック、も、イきそ!」
 絡める指に力を入れてきつく握ると、男の指も強く相手を握り返す。返事はもちろんなかったが、男なりに指を強く握り返すことで返事をしたつもりなのだろう。
「んんん──!」
 一際強く吸い、根元から先端までを舌で舐めあげると、口の中でペニスは大きく震える。すると次の瞬間には口内に熱い液体が注がれた。量のある精液を口にしながらゆっくりと股から顔を持ち上げたアイザックは、軽く息を切らしている主を見上げると白濁した液を喉を鳴らし飲み下す。
「……あ、僕の飲んじゃった」
「美味しゅうございましたよ」
 驚いた表情を見せるカインに微笑を浮かべ立ち上がったアイザックは、石鹸を手に取ると再び両手で泡立て始める。
「さぁ、今度こそ背中を流しますよ」
 背後に回ろうとする姿を見て、カインは細い腕を伸ばすと男の腕を取る。見上げた顔は少し困ったように眉を寄せて、一心に相手を見つめている。
「どうされましたか我が君?」
 アイザックは表情の芳しくないカインを見ると、石鹸を泡立てる動作を止める。もしや一度では足りないと言いたいのだろうかと頭の中で考えるが、それはどうやら勘違いのようだった。


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