愛欲 V

「ところで我が君、なぜ私の部屋に風呂を借りに来たのですか?」
 全身をくまなく濡らした後、石鹸を手に取ったアイザックはそれを両の手で泡立てながら問いかける。
「ん、言わなかったけ? 僕の部屋、お湯が出ないんだよ。壊れたみたいだから後で見てくれない?」
「……そうですか」
 手に出来た、きめの細かい泡で背中を洗い始めた男は、淡い金髪の青年の耳元に唇を寄せると、囁くような声を発した。
「嘘もお上手になられましたね、我が君」
 真後ろで唇を持ち上げて笑う人物に、目を見開って振り返ったカインはなぜ嘘がバレたのかと驚きの表情をしている。自ら服を脱ぎタオル一枚になって、あたかも風呂に入ろうとしていたかのように演じて部屋に訪れたというのに、こうも簡単に嘘が見破られるとはにわかに信じがたい話である。
「塔のボイラーは全室繋がっております。カイン様の部屋のお湯が出ないのであれば、もちろん私の部屋のお湯も出ないはずですが?」
 背中を洗い終わった手は、肌を滑るように脇の下を潜ると薄い胸板をなぞる。それに過剰な反応を示す主は目線を自分の胸に向け、悪戯に肌を這う手に青い目を細める。
「……ぁっ!」
「私を誘っているとお見受けしてよいのですね?」
 胸を滑る手は、左右に別れると円を描くように突起を擦り始める。それに身体を震わせ反応したカインは、胸にある手を自分の手で優しく覆う。
「アイザック!」
「おや、自ら手を添えてくるとは満更嫌でもないということですか。いいでしょう。気持ち良くさせてあげますよ」
 男は声音を変えずに耳元で囁くと、育てあげた乳首を指先でグリグリと擦り始める。
「イぃ──っ!」
 短い悲鳴をあげ、身体を仰け反らせたカインは背中を預けると頭を被る。
「こういうことがお好きなんでしょう?」
 黒髪の男は、自分の胸元ではらはらと散る金髪に視線を落とすと、唇を吊り上げた。
 相手を責めることを嫌がるなど、マゾ以外にいるはずもないということを証明するかのように、主がこの仕打ちに身を捩って喘ぐ姿に男は征服感を満たしていく。
「あっ、アイザックぅ!」
「そんなにここが良いのですか我が君?」
 硬く浮き出る小さな突起を擦りながら追いたてると、男の手に触れていた青年の手は、指先を伸ばして震える。
 吐き出す呼吸もやけに荒々しい。


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あきゅろす。
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