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「私と勝負しませんか?」
「勝負? ナイトロード神父、今は時間がない。可及的速やかに」
「わかってますって!」
 アベルはステップを踏みながらトレスの元へとひた進んだ。
 さほど時間もかからずトレスに追いついたアベルは、満面な笑みで相手を見やるや先程のアイデアを言う。
「トレス君、ジャンケンしません? ルールなら私が教えますよ」
「ジャンケン? ルール? ルールとは、こうであろう?」
「!?」
 アベルはまさか、トレスがジャンケンを知っているとは知らず口走った事に後悔した。
「……報酬はどうするつもりだ?」
「報酬ですか……うーん、負けたほうが勝ったほうにキスをするなんてどうでしょう?」
 一瞬トレスの瞳に炎がほと走ったなど知らず、アベルはまだ余裕だった。
「ではいきますよ。ジャンケンポィッ!」
 アベルはこの勝負に勝った。しかし、喜ぶことは決してなかった。
「どうして!? 私、また変な所で運を使ってしまって……」
「ナイトロード神父、俺の負けだ。キスはどこがいい?」
「……へ? は!?」
「キスは唇か?」
 そう言うなり、ぼーっとしたアベルの目の前で背伸びしたトレスは、無理矢理にアベルの僧依を引っ張ると唇へとキスをした。
「―――っ!」
 トレスの腕力には負けるアベルは不意に口づけを余技なくされた。
「トレス君!」
 まるでゴキブリを見たように後ずさるアベルを尻目にトレスはまた歩き出した。
「ナイトロード神父、時間を大幅に過ぎている」
「わ、私のファーストキスを!」
 アベルは泣きそうになりながら、その場で硬直してしまった。トレスが細く笑みを浮かべたことなど知らずに。





Fin


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あきゅろす。
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