冬の湖を思わせる瞳から零れるモノは、果たしてその湖のように冷たいものだっただろうか?
情を欠かしたように冷たいものだっただろうか?
「冗談は……」
「冗談じゃ、ありません」
アベルの頬を伝うモノにカインが気づいた時には、その表情は怒りを忘れ、次に発する言葉を探すように無言となった。
「……帰って下さい」
しかし、それより先に発された言葉はアベルのものであった。
「アベル!」
「遅かったんです。何もかも全て……」
「お、遅くなったのは謝るよ! 怒ってるなら謝るから! 怒ってるからって、僕を要らないだなんて……あんまりにも酷いんじゃ!」
再度まくし立てるカインが見たアベルの表情はやはり先程と何一つ変わりはなかった。
むしろ、暖かいものだったのかもしれない。
「わかった、帰るよ。けどねアベル、僕は絶対に諦めたりなんかしないよ! 例え君が僕を愛していなくたって、僕が君を愛してる限り、諦めたりなんかしないんだよ!?」
捨て台詞を吐くが如く、カインの体はうっすらと消えかかる。
存在していた事実すら嘘のように。
否定された事実を認めるかのように。
「……カイン、さようなら」
微笑する笑顔は冷たいまま。
愛する人を見送るように。
一生の決別のように。
「愛しているのは、私も同じなんです……」
そう小さく囁いた言葉は、伝えるべき相手がいない部屋に静かに響き渡るだけ。
滲む月が静かに西の空に消えようとしていた。
愛する人との決別。
それはきっと、終わりの見えない試練。
足枷は少し重い方がいい。
そう呟いて、思いを断ち切るようにアベルは遅い眠りについた。
Fin
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