T-U

 どんな意味で、どんな解釈をしたのだろう?
「素直ではないな、ディートリッヒ……」
 君は、紫煙を漂わせながら手を離した。
 こんなに長く一緒に居るのに、触れられている時間はほんの数十秒。
「本当に、素直ではないな」
 わかってて、そんなこと言っちゃってさ。
「そうだよ、僕は素直じゃないかもね」
 誰もが僕の顔を見て羨むっていうのに、君はそんな僕にすら興味が沸かない。
 ――そう、あの神父だよ。
 アレが君を独占してるもんだから、僕にツキが回ってこないんじゃないか?
「わかっているのなら少しは素直になってみてはどうかな?」
 耳元で囁かれた濃厚な声音。
 ほら、今ここで言っちゃえばいい。なのに恐れ入って言えないんだよ。
 元々、僕に興味がない君がたった一言で僕から離れることに。
「あのね“魔術師”君は僕に、一体何を言わせたいわけ?」
 今度は本当に顔が笑った。楽しいとか悲しいとかそんな感情抜きな、君の顔が。
「本当の事を言ってみてはどうかな? と言っているんだよ、私は。“人形使い”……君がはっきりしてくれない限り、私も手のうちようがないのだよ」
 何だよその言い種は!
「わかってるくせに空とぼける君のほうこそ、本当の事を言ってもらいたいものだね、イザーク!?」
 あぁ駄目だ。
 どうして君に何時も何時も、こんな事で腹を立てなきゃいけないんだ?
「それではこの際だから、はっきり言わせてもらおう」
 正直、吃驚した。
 君が僕に物申すって言うのかい?
 でも怖いよ、君が何を言うのかが。
 ――少しだけ時間が動いた。
 短くなくなりつつあるシガリロの煙をゆっくり吐き出し、君は何を言うつもりなんだろうか?
「……どうも君は誤解しているようだよ“人形使い”? 私は、君を嫌ったこともなければ、邪険にしているつもりもない。むしろ、君が私の暗殺でも考えて側にいるというのなら話は別だが。あぁ、それとも君は遅れながらの思春期真っ直中というやつかな? それだったら少しは考慮してあげるんだが?」
 ――ムカつく!
 少しでも期待した僕が本当に馬鹿で惨めだよ。
「わかった。よくわかったよ“魔術師”! もう君について行くのはやめるよ! じゃあね!」
 魔術師は少しだけ眉を歪め、すぐに何時もと変わらない表情に戻してシガリロを灰皿へと押し付けていた。


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あきゅろす。
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