腹が立つよ。
あぁ、本当に腹が立つよ。
君は何時だってそう。
何時だって興味のない顔をして、何でも喰い物にする。
それでいて何食わぬ顔で笑うんだから、本当に腹が立つ。
「“人形使い”……ちょっと側まで来てくれないか?」
ほら来た。
何時もそうやって僕を試そうとする。
何処まで先読みしてる?
何処までが策略で戦略?
まぁ、その企みに乗ってあげるってのも悪くはないけどね。
「何だい“魔術師”? また僕に雑用でも押し付けようって考え?」
暗い部屋の中、抑揚のない瞳。
いつも香り漂うシガリロ。
紫煙で染まり返る空気。
「ちょっと後ろの本を取ってくれないかね? 今、手が離せないんだよ」
やっぱり雑用じゃないか。
「こんな暗い中で、よく本が読めるものだね“魔術師”?」
視線は今、此処にいる僕ではなく手元にある古書に落とされていて、それだけでも苛々するっていうのに、君は全く本当に……
何をしに此処に来たのか、わかったもんじゃないよ。
「……どれ? 沢山ありすぎて……!?」
びっしりと埋まった、魔術師の背後の本棚にゆっくり手を伸ばした時にそれは起こった。
「あぁ、忘れていたよ。君には高すぎて届かない……」
背後から掴まれた僕の手は、魔術師に握られて用を未達成のまま引き寄せられた。
「何だい、最初から悪戯するつもりだったんだね?」
「そんな事はないさ。ただ忘れていただけの事でね、つまりは……」
もうっ!
君の蘊蓄なんて、聞いても全然ためにならないじゃないか?
そんなことより、早くこの続きを勿体ぶらないで、してよ。
「ん……? 何か私に期待でもしているのかな?」
感は鋭いっていうか、これも計算して打ち出した答えの結果、目論見の一つなんだろうねイザーク?
じれったい男だよ、本当に君は。
「この手を離さないと僕が動けないじゃないか?」
どうして素直になれないんだろう。
本当はこんな事を言いたいわけじゃないのに。
「あぁ、すまない」
そして、こんな僕をわかっていて何時も気付かないふりをしている君。
「もう! ご老体でも身体は動かさないと、ボケが進行するんだよ?」
一瞬、死魚みたいな濁った瞳が笑ったような気がした。
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