だから、その本心を裏切る自分の言動にも胸が病んだ。
やり場のない気持ちをぶつけることも出来ず、また溜め息を吐き出すと、我に返り、現実の忘れかけていた自分の半ケツをしまった。机に散った自身の精液も拭き取り、ご丁寧に雑巾で拭いてやってからこの教室を後にする。
あの机を使ってる生徒……精液浴びせてすまなかった。
「おや、武田(たけだ)先生!」
一瞬、ギクッと背筋が硬直した。
俺は顔面神経痛みたいな顔で後ろを振り返る。
まだ教室から数歩しか歩いてない。そんな所で隣の担任教師に出くわすとは!
「……何でしょう、斎藤(さいとう)先生?」
至って冷静に、普段通りに装ってはみたものの、顔は明らかに歪になっていただろう。
「いやぁ、先生も大変ですねぇ……さっき、三上君が泣きながら疾走して行きましたよ。振ったんですか?」
妙に感がいい――というか、さっきの一部始終を聞かれていたかのような質問に、冷静どころか尽き崩されたように青ざめる俺。
そして、とどめのようなセリフが胸をグサリと貫いた。
「モテる男は身体も求められて辛いですよねぇ。私なんてもう、女はともかく男にすら見放されましたよ」
「!」
どういった意味だ!?
まるでお前自身ホモみたいな言い方じゃないか。というか、やっぱり三上に犯られたのを知ってるな、こいつ。
これはもしかしなくてもやばいだろ。
俺の焦躁はよそに、ニヤニヤ笑う数学教師斎藤は、意味深な台詞を残し消えて行った。
──嫌よ嫌よも好きのうち。しかし武田先生に三上君は荷が重すぎるかもしれませんね。
なんじゃそりゃ。
頭の中には疑問符が沢山だ。
斎藤先生が三上の何かを知っていようがいまいが、俺には全く関係ないというのに、やたら突っかかってくるのはとても不愉快でならない。
まぁしかし、ここはご年輩からの貴重なアドバイスとして、不本意ながらもその言葉を胸の中にしまっておくことにした。
――俺が三上のことを好きだと!?
有り得ない。
絶対にあり得ない!
結局、斎藤先生に言われた言葉を念仏のように繰り返し唱えながら、悶々とした気持ちで帰宅の準備を始めた。
確かに男は嫌いではない。
三上も嫌いではない。
でも、教師になりたてだというのに、いきなり生徒と付き合ってしまったら――しかもここは公立で当たり前のように女子生徒もいる。
男子校ならまだしも、噂はたちまち広まって、すぐにでもお得意のPTAなんかで訴えられて即、解雇。職をなくしてしまうだろう。しかも身体の関係がばれたら犯罪者だ。
全くわけがわからない。
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