屈辱に歪む橘の顔とは裏腹に、細く笑う白雪の表情は鬼のように冷たく、残酷極まりなかった。
社会的地位では総帥の足下にも及ばない一般研究員が、初めて有利になった瞬間――この時点で既に、白雪はいつもの自分ではないものへと変貌してた。
「さっき言ったよねぇ? 僕が酔ってるところを見てみたいって」
テーブルに両手をつき、大きな音を立てて立ち上がる白雪は、驚いた視線を向ける上司の前へ立ち、乱雑にスーツを剥ぎ取り始める。
何がどうなっているのか――頭が朦朧としている橘は抵抗すら出来ず、あっという間に着ぐるみを剥がされてしまう。
「……何をする気だ? 白雪!」
息のあがった声は熱を帯び、誘惑の言葉のようだった。それを聞いた白雪もサド心に火を付ける。
「何を? まず、その口の効き方から教えてあげないとねぇ」
背筋を凍らせるほどの冷酷な眼差しは、人を威圧するには十分すぎた。それでも橘は、己の社会的立場からして、ここで怯むわけにはいかない。
「ふざけるな! 誰にむかって──っ!?」
美貌の男の凍りつく表情に圧倒されつつも、なんとか抵抗し罵声を飛ばす橘だったが、赤い瞳は冷たい視線を向け、それから容赦ない平手打ちを放ってくる。
「煩いんだよ、橘」
歪む口元から発せられる声は、まるで今までの声を否定するかのように低音に変わった。もしや人格すら変わってしまったのではないかと疑ってしまう。
豹変した姿に驚いた橘は、見開いた瞳で目の前の人物を見つめ、詰めた息を吐き出す。
「ククッ……裸見られて、顔叩かれて、興奮したか?」
おざなりになっていたペニスは、先程の行為から早くも緩やかな曲線を描き、上を向いて震えていた。
「見られて興奮してんじゃねぇよ! この変態が!」
暴走した白雪を止める術はない。
今思えば、彼はどこまで正気だったのかもわからない。橘自身も、白雪の人格がこんなになるまで酔っていたなんて、想像もつかなかったはずだ。
「……っ、もう、やめ……」
どんなに後悔しても、なにが変わる訳でもない。
身体を巡る薬が切れるまで自身のペニスは勃ち続けるだろうし、白雪のアルコールが切れるまで永遠にこの地獄の繰り返しだ。
事の発端は自分にあったのだし、もう覚悟を決めるしかない。
「なぁ、やめろ以外なんか言ってみろよ!」
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