ANTICHRIST UーU

「とんでもありません。貴方のように凛々しく逞しい方にお褒めいただけるだなんて」
「――!?」
「心を奪われてしまうじゃありませんか?」
 席を間近に取りすぎたせいか――警官の手を掴み取った神父は、男にはもったいなさすぎる細い指先を相手の指に絡め、そっと自分の唇へ運んだ。
 余りにも唐突な行為。
 警官は唖然としながら、職務すら忘れてしまったかのように天使の美貌を見つめる。
「男らしいこの手……僕、大好きなんですよ」
 神父の詰めた息が直に吹きかかる指先に、警官は頬を赤らめた。相手が男と分かりきっていながらも、なぜか欲情心が沸いて来る。何かがおかしいと感じながらも、この神父の美貌を目の前に、警官は疑問すら抱かなくなっていた。
「神父様いけません、こんな指を口にしては!」
 警官の心臓は張り裂けそうに血液を運び始めた。
 絡められた指先が神父の薄い唇に触れ、口の中へ含まれると、ねっとりした舌が指を舐め回し始めたのだ。
 指を引き抜こうにも、神父の美貌を前に成す術も見当たらない。舐められる指の感触に、警官は早くも股間の疼きに苛まれ、眼差しを肉欲的なものへ変化させいた。
 欲望に濁った目で隣りの美貌を見つめると、男は絡めた指を振り解き、次にきっちり着込んだ自分の制服のネクタイを緩める。そしてゆっくり神父の僧衣に指をかけた。
「……僕、男ですよ? 刑事さん」
 蒼い瞳に純粋な悪意の笑みを浮かべているのも気付かず、警官は衣服を剥ぎ取ることに夢中だ。
「わかってます。けれど抑えられません!」
 一つ、また一つと僧衣の留め具を外し、そこから零れる白い素肌を撫で回し、折れそうな細い腰に手を這わせた。
「貴方の美しさは罪だ。俺をこんなにも魅了し止まない」
「――んっ!」
 荒々しい愛撫に神父は身をよじらせ、荒い息を堪えながら小さな声を漏らした。
「その声、その表情、全部全部、貴方がいけないんです!」
「そん、な……」
 糸が切れたように警官は神父の身体を撫で回し、造りの良い薄い唇をひと思いに塞いだ。
 何から何まで唐突。
 驚いた神父はそれでも口の中に進入する舌を絡め取り、その愛撫を堪能した。
「――んふっ!」
 か細い息を漏らしながら、美貌の青年は瞳の奥で笑う。


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