ドグマ -dogma- W

 ――男が、進んで男を腕(かいな)に抱く――それは公爵とて、許容範囲を逸脱した行為だったのだ。
「……わかった。そこまで言うのならお前に任せる。おい、そこの女。下がれ!」
 私がおかしなことを言って聞かないせいか、自棄になった彼は投げやりに侍女を下がらせる。後に全ての主導権を委ね、疲れたように深い息を吐く。
「ルーベンス様もお下がりください。このような面、側にあってもお辛うございましょう」
「いや、いい」
 あっさりここに残ることを主張してきたのは、思い通り事が進んでいる中で唯一の落ち度だった。これを見られては、やるべきことができない。されど追い払うこともできず、不承不承、捕らえた男の元に行く。
 背後から冷たい瞳の視線を感じ、主人に見られながら男を抱くのかと思えば、全身が総毛立った。
 彼は直接的に手を下さず、その目だけで私を犯すのだ。
 男は抱けぬと、一度は私を突き放した彼が……



 窓から射し込む日差しの中、男のしなやかな肌に何度も唇を這わせた。
 相手が女から男に変わり、屈辱的な思いを味わったはずの表情に再び朱が挿すと、熱い吐息が漏れ始める。
 自分の欲に従順なのは良いことだ。ただ、この場を考えればそれが仇になると気付かない愚鈍さは、同じ刺客として残念な部分でもあった。これくらい堪えられなくてどうする――そんなことを思い、なぜこいつの身の上を心配しなくてはいけないのかと我に帰る。
 私は、この男を殺そうとしているのに。
「ルーベンス様のお命を狙い、捕われてこのような仕打ち……お前はどう思うか?」
 硬く閉じた目、緩く開いた唇。とても官能的な表情を見せる男には、すでに羞恥心はないと見えた。完全に溺れきってしまっている。
 指先で胸の突起を弄び、うなじに唇を這わせると小さな喘ぎが漏れた。
「あ……」
 頭上で縛り上げた縄が軋んだ音を放つ。
「答えぬか」
 更に強く、爪を立てて胸を苛めば、たちまち訪れる痛覚に悦の表情が崩れ去る。乱れた呼吸が私の耳元を掠めゆく。
「それは」
 うっすらと開く、濡れた鳶色の瞳がこちらを見るが答えはなかった。何かを考えるように口をつぐみ、暫くした後、急に顔を赤らめて俯く。今までの経緯を思い出し、羞恥の情でも蘇ったのだろう。
「……愚かな」


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