響き渡る男の声に、警官の顔色は見るからに青ざめ、現実に帰ってくるのが同時だった。顔を上げることもできず、ペニスから口を離して息を殺すだけが精一杯だ。見つかってしまっては言い訳もできないだろう。
「すいません、どなたか……」
二度に渡り男の声が響いた時、動揺を濃くする警官とは裏腹に神父の表情は冷静だった。
「……す……て……」
そして微かな声をあげて何かを言い出すのだ。
「!」
この言葉に驚いた警官は、瞠目したままの瞳を神父に向けて硬直する。もうどうしてよいのか頭も回らず、虚しく口を開閉させるだけで何もできやしない。
「誰かいらっしゃるのですか?」
動揺する警官をよそに、か細い神父の声を聞いた男は聖堂内へ歩みを進めた。
この教会も決して広いわけではない。長椅子に横たわる裸の神父と、下半身を露出させて覆い被さる警官の姿などすぐに見つけてしまうだろう。
コツコツと足音を響かせ、席の間を一つ一つ確認するように進む男はやがて見つけた二人の姿に息を飲んだ。
「――何をしている!?」
一瞬、何が起きているのか理解できず戸惑いを見せたが、金糸の髪を持った見目麗しい青年と目が合うと、たちまち胸の中に靄(もや)がかかった。それに男が着ている濃紺の服――つまり、自分が着ているものと同じ制服を着た仲間を見て愕然とした失望感を覚える。
「……助けて下さい!」
あまりにもの光景に呆気に取られたが、神父の悲痛なまでの声に目を覚ますと、聖堂内に踏み入った男は腰の銃を引き抜いた。
「手を上げて、今すぐそこから離れろ!」
もちろん、警告をしたのは神父を押し倒している警官にだったが全く退く様子がない。それどころか、神父のほうが目の前の男を押し退けて逃げるという勇敢な行動に出ている。
「さぁ、早くこちらへ!」
危機から脱出しようと、逃げ来る麗しいの青年を上手く保護し、同僚に銃口を向けたままだった男は自分の上着を神父にかける。
「もう大丈夫です。貴方はここの神父様ですね?」
素直に頷く神父は、蒼い瞳の目尻に涙を浮かべた。
「あの刑事さんが、急に僕を……!」
神父の涙ながらの言葉に男は疑いすらかけなかった。
自分の胸でさめざめと泣き、仕舞いには泣き崩れてしまった姿を見てすっかり信用しきっている。
「……こんなことになってしまっては、もう聖職者は続けられません。あとは死ぬしか……」
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