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don't be our last kiss
んな馬鹿な。
こんな陳腐な感情、持つわけないと思っていたのに。

シーツが冷たい。手足が伸び伸びできる。布団も蹴っ飛ばし放題。寝相を変えることだって。それなのに脳ミソは素肌のサラサラした感覚を思い描いている。動脈だか静脈だか分からんが、血管の浮き出た堅めの腕と俺のが重なりぶつかり合うのを望んでる。そして布団の窮屈さに顔をしかめながらもすぐ横の36℃に胸まであったかくなるのだ。細長い節くれだった指は時々優しく頬を撫でるし、そうそう、たった一ヶ月前までは、まだ付き合ったばっかりだったし、一日一回(とはいえいつも眠る前のどこかだったが)10秒ぐらい堅く抱き締めあっていた。それなのに、今は、どういうことだ!付き合って2ヶ月でもう倦怠期かよ、早くね?大体ひと月目を過ぎる直前か、3ヶ月目って雑誌に書いてあったんだけど。全然違うじゃん。嘘じゃん。とかなんとか文句を垂れつつも、土方さんは只今絶賛会計処理中である。密偵や工作の金を取り仕切るのは彼一人なのだから仕方ない。会計課だけには任せられないのだ。

こう理論で一つにまとめてみても、心の渇きは潤わず。言ってしまえばいいのだ、たった一言のフレーズを。

俺はいま、寂しいのだ、と。

こんな感情、嘘だと思ってた。俺に愛しいとか恋しいとかは存在しないし、実際のところ、世の中に本物が存在しないと思っていた。みんなドラマの見すぎなのだと。駅前で語り合うカップルが紡ぐ言葉は、流行りの小説やテレビドラマから借りてきたまがい物で、みな二人の世界に物語を生み出したいから言うセリフなのだと思っていた。馬鹿馬鹿しい。寒い。間抜けだ。阿呆だ。でも今世界中で一番馬鹿で間抜けだったのは俺なのだと気づいてしまったのだ。

何か物足りない。満たされない。布団に向かってキスしてみても、ますます虚しくなるばかりで、枕にしてみても同じ感じで、そう、臨場感が足りないのだ。キスされたあとに何をされるのか予想の出来ない不安の感じがたまらないのだ。でも布団と俺の間に臨場感なんて生み出されたらそれは何だかもの悲しくて…。



「…おはよう。」
「あれ。」
「3時に終わったんだ。」
「そりゃご苦労で」
黄色い光の中に土方さんの肉体が映しだされる。
「寂しかった?」
の問いには「さあね」で答える。

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