短編 極道さんに下克上を 一周年記念 杉野真人21歳。男として生まれたからには愛したものを抱きたいと思うのは必然的なことだと思う。当然だ、いくら組長さんに抱かれてたって俺は男なのだ。そして俺は組長さんで立つ。もちろん、興奮する。でなければ抱かれるわけがない。 明日は組長さんはオフ。当然俺もオフ。予定も入れていない。完全なるオフだ。 今夜は早く戻ってくる。だから今夜だ。勝負は今夜。 俺は今夜、組長さんを抱いてみせる。 組長さんに下克上を 「お帰りなさい」 組長さんを出迎えに玄関に出る。虎三郎にはリボンをかけてみた。が、スルーされた。 鞄を受け取って部屋に戻りいつものように着替えを手伝う。夕食も終えたところで俺は切り出した。 「組長さん」 「なんだ」 あああああああその疲れたような声がかすれて色っぽい。ちらっと見てくる目が流し目ですかそれぇえええ!! い、いや落ち着け俺。組長さんの色気にもうやられてたらもたないぞ俺。 「お願いがあります」 「願いだと?なんだ、言ってみろ」 俺はつばを飲み込んだ。やれ俺、言うんだ。今が一生の勝負の時だ。 組長さんを思う気持ちの全てをぶつけなければ。 でなければ俺が俺でなくなります、まる。 「組長さんを、俺に抱かせて欲しいんです」 ―――沈黙。 ちらと目をあげると組長さんはお猪口を取り落としていた。ああ、よかった動揺してる。 いつぞやの妄想のシチュエーションじゃないけど、俺はもう我慢出来ないのだ。 抱かれて組長さんのテクに翻弄された後何回「あああああ抱きたい抱きたい抱きたい」と葛藤したことか。無防備に眠る組長さんに何回セクハラしたことか。 そのお尻とかおケツとかヒップとか。誘ってますよねその鎖骨。 ともかく言ったぞ俺。やったぞ俺。あとは説得するだけだ。こう見えても有名大に行っていたんだしかも法学部になぁ!!ナメるなよこの話術。 と俺はどっかの誰かに宣言してぐっと拳を握り締めた。 「俺だって男です!愛している人を抱きたいのは当然だと思いませんか!?」 「ちょっと待て、いや待て、いいから待ちやがれ真人!俺が抱かれる側に!?出来るワケねえだろうが!」 「じゃあ組長さんは俺を愛してないんですね!?」 「は?」 「愛してるなら別に俺を抱いても抱かれてもいいはずですよね?たとえば俺が狼だって抱けるはずですよね!?俺が竜だってキメラだって俺を愛してるなら抱けるし抱かれるはずですよね?違うんですか!?ただ俺で性欲発散したかっただけなんですか!!?!」 「落ち着け、いいから落ち着け」 「落ち着くのは組長さんですよそれしょうゆですよ、飲めませんって」 動揺のあまり銚子ではなく醤油をお猪口に注いでいる組長さんを止め、真人は更に言い募った。 「俺だって組長さんで実戦勉強してるんです!抱けるはずです!」 「俺は攻めだろうが!バリタチだ」 「いいえ諦めません。諦めなければなんだって出来ます。もちろんあなたを抱くコトだって出来ます」 「抱かれる気はない」 「ってことはやっぱり俺なんて!シークレットの従業員じゃないんですよ!俺だって組長さんを愛してるんですよ、抱きたいんです」 「抱かれたことないんだよ!」 「へ?」 「抱かれたことないんだ。未知の領域ってやつだ。チャレンジする気にもなれん」 な、 な、 なにこのかわいい生き物――――――!!! 俺は畳を殴った。心臓が打ち震えた。抱かれたことが無いから怖くて嫌だだってーー!!? ちょ、推定35歳!!可愛すぎるよコンチクショーーー!! どんどんと畳を殴って悶える俺に何を勘違いしたのか組長さんは気まずそうに言った。 「お前だって気持ち悪いだろうが。俺が喘ぐなんて」 「気持ち悪いわけないでしょう!」 俺はその一言を全力で否定するために組長さんに飛び掛った。 「ものは試しですよ、組長さん」 「は!?」 「俺柔道の師範代なんで。寝技で勝てると想わないでくださいね」 ぐいっと押し倒してにっこりと笑ってやる。 後が怖かったが、今はもうやるしかない。当たって後で砕けろ!だ。ばりっと着物の袷を割り開くと本気だと分かったのか組長さんは今更暴れた。 かなり強力だったが何とか組み伏せる。 「ね?組長さん。俺を愛してるなら」 「――っ」 トドメ。 組長さんは目を閉じた。よしっ、落ちた。 俺は嬉々として組長さんに襲い掛かった。 □□□□ 「んぁっ」 くぐもった喘ぎ声が木霊する。 組長さんが息をするたびに背中の龍が艶やかにうねって刺青まで喘いでいるような錯覚を起こさせた。タチらしく、感度はいいとは言えなかったが、流石に前立腺を弄れば快楽を感じるらしい。 しかし不機嫌なままだ。これは、終わった後4分の3殺しは覚悟しとかなければならないかもしれない。 「組長さん、イイでしょ?」 組長さんジュニアは反応している。 うわ〜こんなもんいっつも受け入れてんだよな〜デカ…。って感心してる場合じゃない!!! 後ろから弄りながら組長さんを堪能。だってこの一回を逃したら次はいつか分からない。 「ね、組長さん」 がっつり極道なあなたですけど、結構可愛いですよね。 強面だって見慣れちゃえば……まあ怖いことありますけど、そこまでじゃないですし。 俺ね、あなたのこと大好きなんですよ。 たとえあなたが白髪が生えてきたって中年太りしたって好きだと思います。 可愛いじゃないですか。太っちゃったねっていって突いてあげますよ。白髪だって目指せロマンスグレーって笑い合いましょうよ。 「ほんとに、好きです」 金から始まった関係ですけど今なら両親に感謝ですね。 大好きですよ。 だから、この手で喘がせたいって 思うんですよ。 「感じてください」 するりと刺青を撫でる。この証が好きだ。覚悟が好きだ。何もかもが好きすぎておかしくなってしまいそうなほど。 「ひぁっぐっ…まこ、とっ」 「組長さん…」 「はっ…男に二言はねえよ…心配すんな」 ――思わず抱きしめた。 振り返ってアルカイックに笑ってみせた組長さん。 言わずとも分かってくれる。悔しいけど、これは完全に年齢差の分だけ組長さんが大人である証だ。 ぴたりと肌と肌を重ね、うわごとのように組長さんの名を呼ぶ。 「組長さん…忠孝さん…」 侵入を開始すれば、組長さんの背中がしなった。耐えているらしい背中に話しかける。 「痛いですか?」 「もっと、いてぇこたァ山ほど、あるぜ、くぁっ…」 はらりと落ちた前髪が壮絶に色っぽかった。思わず遠慮を忘れて一気に収めてしまう。 初めて入った組長さんの中は気持ちよかった。熱くて、うねっている。 「あぁっ…」 しかも、何を思ったのか、組長さんは締め付けてきた。思わず俺の咽喉から出たのは喘ぎ声。――ってコレ逆だよね!? 組長さんは余裕のある笑みを浮かべた。 ――あれ?これって・・雲行き怪しくない? 「おら、気持ちいいんだろ…?動けよ」 いつもの組長さんがカムバーーーークっ!!! 違う!こんなはずじゃ…っ…あ、きもちいっ… 腰が勝手に動き出す。向きをかえ、向き合う姿勢になるとあっという間に組長さんにリードを奪われてしまった。 「がっつくんじゃね、あっ…はっ、余裕ね、えなぁ?」 「だって組長さ、うっ」 「イイならイイって言うんだよ、はぁっんっ」 「あっイイ、イイですぅっ」 台詞だけ見ればいつもどおりじゃねえかぁああああ!! ガンガン腰使って責めたててくる組長さん。イイところを掠めるたびに熱い吐息を洩らす。 上下に動く胸や腹筋がかなり色っぽかった。流れ落ちる汗に目が奪われる。 ニタッと笑みを浮かべる組長さん。 一瞬の隙をついて締め付けられた上に動かれて俺はあっという間にもっていかれた。 「あぁあああぅっ」 吐き出した後の気だるい感覚。 ぐったりと組長さんに倒れこむと、組長さんはうっそりと笑った。 「――こんなんじゃ、俺はイケねえなぁ…?」 そ、そんなぁああああああああ!!!! 杉野真人21歳。 下克上出来た気が、一切しなかった、とある夏の夜でした。 終 (次は覚悟できてんだろうなァ?) (ぎゃああああああ!!今度こそ腹上死するぅううううう) [戻る] |