短編 この俺を誰だと思ってる 借金二千万を帳消しにするかわりに変わった男を手に入れて数日。 泣いたり嘆いたりと忙しい男だったが見た目だけはいい。むしろ好みだった。だから犯罪めいたことをして手に入れて、褥に引きずり込んだのだ。 「組長さん…」 今も、抱いたばかりだ。 隣りで失神するように眠りに入ったそいつ、杉野真人は寝言のように俺を呼ぶ。 俺は煙草に火をつけ、ゆっくりと紫煙を吐き出した。 「ふー…」 一度抱けば飽きるかと思っていた。 今までがそうだった。 どんな女も男も一度抱けば飽きた。もっても2、3回だったはずだ。 「それがどうだかな」 独り言を呟いて真人の肌を見る。 無理やり抱いて手篭めにして、口づけて征服して。 「らしくねえな」 相当相性がよかったらしい。これまでにない快楽をこの男はもたらしてくれた。 これはマズイと本能が警鐘を鳴らしている。 これはまずい。この体にハマる。 泣き叫ぶ顔にも、嫌がる顔にも、ハマりそうだ。 「−−」 俺は煙草を灰皿に置くとタオルを取り上げた。 放置して、腹を壊されたらまたシたくなったときにデキない。 処理をしてやろうと手を伸ばしかけて気づく。 今、もう抱かないほうがいいと思ったのに、もう次の算段をしていた。 マズい。本格的にまずい。 弱みになってはならないのだ。 溺れてはならない。快楽に人間は弱い。 タオルを投げつけて立ち上がる。 たかが21歳のガキに溺れて如何する。 おれは誰だ。京獄組の組長、京楽忠孝だろう。 「チッ」 こんなのは自分らしくない。 どこか苛立ちながら、俺は真人を放置して寝室を出た。 [次へ#] [戻る] |