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短編
極道さんにあけおめを

正月SS

極道さんと黒の誓いクロスオーバー??


俺は杉野真人、21歳。大学生だったが組長さんに買われ囲われ幸せな日々を過ごしている。
しかし正月ともなればヤクザの親分である組長さんは忙しく俺は構ってもらえない。そこで組長さんが俺に買い与えたのがPS3。そして難しく長いと有名なアクションRPG、黒の誓いだ。俺はここ一週間これをやりこんでいるが全く進まない。まず、これにはレベルがいくつかある。戦いのレベルと召喚のレベル、魔術レベルだ。その時点で死ぬ思いだが他にもスキルや技、魔術を習得するのが難しい。
召喚レベルが低いとヴァルディスと契約しているだけでHPが減っていく。戦いのレベルが低いと当然すぐに死ぬし、魔術レベルが低いと召喚合体技が出来ない。
更に、敵が地獄並みに強いのだ。おまけにストーリーも長くエンディングはまだまだ先のようだ。ガイアに出会うまでは広すぎるフィールドを走っていたため移動時間もかかる。また、ルイスターシアの説得にも何らかのスキルが必要で、攻略は果てしない。サブイベントも多く、それをこなさなければ本編が進まないことも多々ある。
確かにこれはやりこみ要素満載だ。衣装もいくつも用意されているしムービーも多かった。武器も途中で変わったりする。ハレスの鞭や連輪は扱いが非常に難しかった。レオニクスも剣ではあるのだが癖が多く使いにくい。ヴァルディスは最初から魔術レベルが高いが最初は消費量が半端なかったため多用は出来なかった。
特にシリウス戦などラスボス戦かと思うほどの難易度だった。まず、レオニクスをパーティに入れていなければ絶対に勝てない。時間がかかりすぎるとヴァルディスがシリウスに全てを連れ去られ、ゲームオーバーとなる。
其の前のクリスティン戦は数十人対パーティという集団戦だった。しかもイベントでレオニクスが死に掛けるためクリアが難しい。
ハレスは戦闘中は治癒を殆どしてくれないのだ。ディシスは防御力が高く使いやすい一人だが、命中率が低い。
魔界へ行けば今度はバスティアン戦だ。これはレオニクス個人戦で、戦レベルが低いとまず死ぬ。レベル上げに徹さなければこのゲームは進まないのだ。
他にも、ブラックを探すのが大変だったり隠密戦があったりととにかく多彩な戦いやイベントに溢れている。
このゲームで困らないのはガドル、お金だ。ヴァルディスから定期的に金が入るしレベル上げで倒した敵からも相当金が落ちる。ヴァルディスの宝物は勝手に売り払うことも出来る。
俺はこのゲームをひたすらやりこんだ。お城は広く入れない部屋はなく、結構イベントもあって宝箱もそこら中に落ちている。
シリウスの神殿はレベル上げに適している。しかも和解後のシリウスは会うたびに何かくれて回復してくれて武器を強化してくれるのだから便利だ。
アルスは旅の助言をしてくれる存在だ。シリウスの傍にだいたいいて、話しかけると何か助言してくれる。
ちなみにガイアは自由には呼び出せない。いつシュイノールやドン・クィレル、オクレイに停留しているか分からないしヴェレ帝国のスカラベラにもたまにいる。空を飛んでいることもあるから便利かどうかは正直分からなかった。
このゲームの攻略本は広辞苑なみに厚くて上下ある。開発期間は気の遠くなる長さだったらしい。
ヴァルディスが竜の姿で飛んでくれるときがあるがあれをやるとディシスのHPが減る。

「またやっているのか」

「あ、組長さん」

俺は組長さんの声で回想から引き出された。今は魔界にいて、反乱にあっている真っ最中だ。先ほど五回くらい失敗してようやく召喚を成功させたばかりだった。

「これ面白いです」

「そうか。そりゃ良かったが、進んだのか」

「殆ど。あ、ムービーですよ、見ますか?」

テレビ画面にはムービーが流れ始めていた。チェスノコフとムーンの密談だ。組長さんは興味なさそうにテレビに目を向けた。
ムービーが終わり、魔界のレオニクスの私室に画面が戻った。気絶しているハレスと傍によっているディシスが途方にくれている。

「楽しいか」

「ええ。組長さんはまたお出かけですか?」

「ああ。元旦なのにすまねぇな」

「構いませんよ」

組長さんいないなら元旦祝うのもつまらないし、俺はコントローラーを握った。
今、レオニクスたちのレベルがだいたい70前後だ。200レベルが最高レベルだから全然ということになる。

「まぁ、それでしばらく遊んどけ」

「はい」

俺は素直に頷いた。
組長さんを見送るために立ち上がる。

「今日は早く帰る」

「無理しないでくださいよ」

組長さんはフッと笑った。そのニヒルな笑みがかっこよくて俺は憤死しそうになる。

「じゃあな」

「はい」

そして俺は黒のベンツを見送り部屋に戻った。
とりあえずゲームをセーブして電源を切る。正月の準備をしなければならない。

「金子さーん」

「へいっ」

「神田さんはいますか?」

「いえ、組長のお供しております」

「そうですか。とりあえず、俺達は俺達で正月を祝いますか」

「それが、若頭はいねぇんですが、瀬野尾さんが」

「瀬野尾さん?」

「おうグリズリー」

瀬野尾さんがぬっと姿を現した。いつもと変わらないスーツ姿だがタイピンが兎になっている。

「うさぎ?」

「おう。今年は卯だからな。去年は虎をつけたぞ」

瀬野尾さんが得意気に言う。流石は組長さんの親友。可愛いところがある。

「今日はちっと頼みてぇことがあってな」

「何です?」

「これ、お前にやるからつけろ」

「は?」

瀬野尾さんが袋を差し出してきた。受け取り、中を見て俺は絶句する。
中身は、兎耳だった。

「ちょ、何で?」

「忠孝に約束しちまったんだ。お前にウサ耳つけてやるって」

「そんな」

直接頼んでくれればいくらでもつけてあげるのに…。瀬野尾さん経由なんて可愛いな組長さん、鼻血出そうだ。

「あとこれ、忠孝から」

「?」

「お年玉」

瀬野尾さんが渡してきたのはファンシーな兎のぽち袋だった。薄いそれを受け取り、中身を出す。
出てきたのは鍵だった。

「鍵?」

リボンがついた鍵を眺め回す。
車の鍵じゃなさそうだ。何かの金庫だろうか。

「そう、鍵。ドバイの別荘の」

「へぇって…はぁあああ!?」

ドバイ!!?
別荘!?
どういうことだよ!

「正月の休みをとって、別荘で二人で過ごすために買ったらしい。これもって忠孝のとこにウサ耳で行け」

「え、あ・・」

ウサ耳は白くてふわふわしていた。
外れないようにリボンがついている。

「俺の用は終わりだ。あけましておめでとう、グリズリー」

「おめでとうございます、瀬野尾さん」

瀬野尾さんはひらひらと手を振って去った。俺は鍵とウサ耳を見比べる。正月、出来るなら愛しいひとと過ごしたい。それが叶わないからゲームに没頭した。
あのゲームは主人公達が男同士で恋愛するBLRPGでもある。主人公カプの幸せそうな姿。
あの二人だって正月があったら一緒に過ごしたいだろう。
さっきまで握っていたコントローラーが背中を押す気がする。

俺は走り出した。

「金子さん!!車出してください!」

「はい?」

「組長さんが、俺を待ってるんです!」

「は、はい!」

俺の勢いに押されて金子さんは車を出した。

俺は車内でウサ耳を袋に戻し鍵を握り締めて待つ。

宴会が終わるのなんて待っていられない。俺は組長さんの伴侶だ。伴侶なら、隣にいて当たり前だ。

「組長さん!」

「真人?」

すぱんっと障子を開き、組長さんに近づく。驚いたような組長さんすら愛しく思いながら俺は組長さんの手を取った。

「貴方を、貰います」

「は?」

「行きましょう!」

もう充分面子はたったはずだ。俺は組長さんを連れ出す。いっそ攫ってもいい。
一番大事なヒトと過ごさないで何が正月だ。

俺はあのゲームの二人に自分達を重ねて寂しさを紛らわしていただけだ。

「真人!」
「貴方しか今はいらないんです」

今だけじゃない。今までもこれからも。

なぁ組長さん。

楽しい正月を一緒に過ごしましょう?
思い出になるような、正月を。

あの二人に負けないくらい、素敵な時間を。

「それに貴方にまだ言ってない」

「何を?」

俺はにっこり笑っていった。


「あけまして、おめでとうございます」

今年もよろしくね?組長さん。




(唖然とした貴方にくちづけて)
(初キス、なんて恥ずかしいこと、やってみようか)


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