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短編
白銀の彼が来たときに

カップルですらない出会い編
イタリア人×クラブの受付



クラブ「シークレット」。裏社会の金持ちの間で大人気の男色クラブである。
会員制の予約制。クラブの男たちは21〜30歳までの玄人たち。予約が入れば客の指定に従って動くがなければクラブで待機。
客の素性も従業員の素性も公開されず、知っているのは店側の役員のみ。
一見さんお断りの紹介制で客として登録する際店側は客を徹底的に調べる。金はどうか、収入は続きそうか、会社や組は安泰か、警察は大丈夫か。
それらのチェック項目をすべてクリアした客だけが会員となれるのだ。
今ブルジョアの間ではシークレットの会員になることが一種のステータスになっているのだという。
オーナーは京楽忠孝。ここは京獄組の大切な資金源のひとつになっている。

そして俺は倉沢桧(ひのき)。21歳。実は京楽組長の情人、杉野真人の親友だったりする。あのときは世界は狭いと痛感した。
シークレットの受付をやっている俺は、クラブの様子を見に来た組長に抱かれる真人を見て絶句してしまった。思わず営業スマイルも忘れた。
そりゃ組長が男を囲ったのは知っていたがまさか真人だったとは。
大学でも見かけなかったし辞めたのも知っていたが、まさか組長の情人だったとは。
それがちょうど一週間前。

そして今、目の前にその真人がいる。

「…いらっしゃいませ?」

「違うよ!」

「だろうね。で?」

「組長さんに待っておけって言われてさ。それで桧のとこに」

「俺も仕事中なんですけど」

「組長さん命令」

「あーもうやだねー。恋人の特権使いまくって」

「あ、言ったな!」

実際、ここで俺がやってるのは電話を受けたりすることばかりで真人の相手をしていても出来る。
真人は俺から見ても美人な奴だと思う。そして変わった奴だ。
今も高級なオーダーメイドのスーツを着てさらっと黒髪を流しているが21にしては色気がある。口を開かなければ。
こんな美人なのに口を開けば男前。本当に残念な奴だと思う。
そしてホモだったのか。
俺はこんなところで働いているけれど男相手にシたことはない。女にときめいたこともないから、俺もホモだとは思うけれど。

「真人、今どんな生活してんだ?」

「今?殆ど屋敷にいるよ。たまに外出してるかな。組長さんが金を使うから今度ユニクロに連れていこうかなって思ってる」

「いや浮くからやめとけ?」

「だよな。組長さん、モーフィアスと同じような格好をナチュラルにしてるよな」

「そういうお前は今ネオ状態だけどな」

俺たちは軽口を叩き合った。組長さんに囲われて以来、真人は殆ど外出できず俺ともずっと会えなかった。
こんな風に話すのも何ヶ月ぶりだろう。


あまり仲良くするのは組長に喧嘩を売ることに成り兼ねない。
だからそこは見極めが大切になる。

「瀬野尾さんでも来たのか?表が騒がしいな」

イケメンな瀬野尾はモテる。
会員ではないが瀬野尾にならサービスしたいという従業員が後を絶たないのだ。
組長と並ぶとそこはもはや別世界だ。

「いや?外人さんだったけど」

「外人?」

シークレットは世界中に顧客を持つから外人は珍しくない。
受付たるもの、日本語、英語、イタリア語、ドイツ語、フランス語はぺらぺらだ。
しかし外人を伴い組長が来るのは珍しい。

「凄いイケメンだった。組長さんと並んで遜色ない」

「そりゃすげえな」

組長や瀬野尾さんを見慣れている真人が断言するのだから美しいのだろう。俺は素直に感心すると同時に脳裏に何人かの外人をリストアップした。

だが恐らく外れている。
留めることなく脳裏から消す。

「あ、珱(よう)さん」

「ハロー、真人ちゃん久しぶりだね。元気してた〜?桧ちゃん、俺仕事だから待機終わりねー」

派手な衣装の日本人離れした美男が奥から出て来てカウンターに肘をついた。
珱さん、26歳。このクラブのNo.3。
本人いわくそれくらいが1番いい。


「へぇ、これから赤坂な。あの金縁親父か」

「そうなんだよね〜俺アイツ大嫌い。でもいいパパだからね。せいぜいサービスしてきまーす」

「今オーナーが外にいるから気をつけろよ」

「エッ、それホント?うわっ、やっば」

珱は慌てて身嗜みを確認した。
組長は滅多に来ない上に厳しく、気を抜いた恰好をしていればすぐに叱責が飛ぶのだ。

「もう時間だし、俺行くわ。じゃね、真人ちゃん。桧ちゃん」


珱はぱちり、と魅惑的なウィンクをして去った。あのウィンクに何人の親父が落とされたのか、考えるのも馬鹿らしい。
俺はあーされてもどきりとも来ない。だからか最近は恋愛自体を諦めている。
ときめいた経験ナシ。セックス経験アリ。これだけ聞いても最低だろ。

「珱さん綺麗だなー」

「紅葉(こうは)見えたら言って」

紅葉。このクラブのNo.1。ミステリアスな美形。組長に放り込まれ、すぐに人気になった新入りだ。
古株の元No.1、夜の客をことごとく横取りしたため従業員の中での人気は最悪。
夜だけじゃなく他の従業員の客も横取りした。
ただ、この世界はシビアで、取られたほうが負けなのだ。
夜や珱は見事なもので、客をだいぶ取り返したはずだ。

ただ、俺も紅葉のやり方は気に食わない。

「今日紅葉さん待機?」

「いや客から連絡あってさ。失礼があったみたいで追い返されたっぽい」

「え…」

「だから今日多分組長機嫌悪いわ。頑張れ」


真人がみるみる青ざめた。そりゃそうだ。組長の機嫌はダイレクトに真人が受け止めるのだから。

「それにしても組長長いな」

「話し込んでるのかな?」

「ちょっと俺行くわ。客を連れて来たんなら放置出来ないし」

「でも待ってろって」

「信じられない!」

怒りを含んだヒステリックな声が聞こえ俺は外に飛び出した。
声をあげたのは紅葉。組長と並びこちらに背を向けている背の高い外人に手を振り上げている。その手には水の入ったグラス。

やばい!

何してるんだNo.1!組長の知り合いっていうか客に水をぶっかけるなんてありえないだろ!

俺は走り出した。

外人を押しのけ、背に庇う。


バシャッ!


―――冷たっ!


つ、つめたいっ!んだ、これ、氷!?


「申し訳ありません組長。Is it safety?Customer(ご無事ですか?お客様)」


「Il mio nome è Alessio. Grazie.(私の名前はアレッシオ。ありがとう)」

え?イタリア人?俺は紅葉を睨みながら水滴がお客につかないように少し離れた。

「Io sono spiacente. Perché io dico a lui e lo dico(申し訳ありません。彼には言って聞かせますので)」

イタリア語に切り替えて謝り、紅葉の腕を掴む。そのまま謝らせたかったけれどきっとそれは叶わないだろうし組長を怒らせるような言動をさせたくなかったので後日謝罪をしにいくことにした。

――ふわり。

俺のずぶ濡れの頭に布がかぶせられた。それが上質な上着だと気づいたのは、慌てて掴んでから。ふわりと香るコロン、位置的にも、かぶせたのは一人しかいない。

「Io sono interessato in Lei, Non viene alla mia stanza?(君に興味がわいた。私の部屋へ来ないか)」

俺を誘ってやがる?
ふざけんな、俺は受付で――――…

俺は振り返った。振り返ってしまった。白銀の髪を持つ、端正な外人を。

「――っ!Sì(はい)」

ああ、どうしよう。


白銀の彼が来たときに


END


(俺は、はじめて、ときめいた)





イタリア語は適当です


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あきゅろす。
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