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顔が見たくて会いに来た



―――あ。

日曜日、昼下がりの頃だった。
見慣れた状景。踏み慣れた繁華街の道。
何もかもがいつも通りの中――人込みに紛れずに浮かぶ金色に、帝人は気がついた。
―――静雄さん。
声を掛けたい。だが、この時間帯は大抵仕事をしている可能性が高いことを帝人は知っている。
ようやく見つけ出したのに、と思ったその時――その金色が動き、青いサングラスが見えた。

「――――」

息を呑む。
帝人は反射的に建物の裏へと逃げこみ、そのまま足を休めずに駆け出す。
どうして走り出したのか分からないまま――帝人はただ一向に走った。




ここに来てからは体力が付いてきたと思う。
だが、それでも帝人の体力はあの場所から走り出した三分後には、見知った噴水広場で息切れする程度のものだった。

「ふぅ…っ」

息を整えて、帝人は頭を更に下へ落とす。
―――そういえば、なんで走ったんだろう。
彼がこっちを向くと分かった瞬間、まるで彼から逃げるようにして走ってしまった。
こっちは彼を探しに外へ出たというのに、だ。
―――本当は会いたくなかったのだろうか。
始まりそうになるいやな思考を振り払うように帝人は頭を振る。
ちょうどその時――足元の影が大きくなった。

「―――なぁ」

振り返り、金髪が太陽の光に反射して輝いているのが見えたと思えば、聞き慣れた声が耳に伝わる。
逆光のせいで相手の顔は見えないが、穏やかではないことは分かっていた。

「さっき、手前を見かけたんだが…あれは俺を避けたのか?」

顔が横に向く。
怒っているような口調なのに声音に不安を含ませているのが窺えて、ちくりと胸が痛んだ。
―――違う。ただ、時間が欲しかっただけで…。
そう帝人は心の中で呟き、ふと帝人は疑問に思った。
―――時間?…何の?
そう自分に問い――帝人は漸く自分が走った理由を知った。
立ち上がり静雄と向き合うようになる。

「―――静雄さん」

顔を背けたままの静雄を呼ぶ。
一瞬合い直ぐに反らされた目が物語る不安を受け止めるように、帝人は話し出す。

「僕、あなたに会いに行ったんです。…でも、僕すっかり忘れてたんです」
「何を」

きつい言い方をした言葉。
しまった、と静雄の顔はそう表現し、誤魔化すように口元を手で隠す。
そんな静雄の両頬に手を置き、無理やり向き合わせるようにすれば、薄く色の付いたサングラス越しでも不安そうに揺らいでいるのが分かった。

「―――理由がなかったんです」
「…理由?」

さっきとは一変して、きょとんとする。
そんな静雄に胸が締め付けられるのを感じながら、帝人は答える。

「はい。馬鹿ですよね、静雄さんに会いたくて外に出たのに、肝心の理由の方を忘れてて…その理由を考える時間が欲しくて、走ったんです」

―――それを理解することにも時間が必要だったけど。
帝人は薄く笑う。

「そんなの、別に要らねぇだろ」
「だってもし静雄さんが仕事の途中だったりしたら迷惑じゃないですか」

その言葉に静雄は口籠もり、何も言えなくなった。
帝人は尋ねる。

「仕事は終わりましたか?」
「…ああ」
「だったら―――こんな理由でも良いですよね」

帝人はにっこりと笑い、静雄さんの耳元に口元を近付けて何かを囁く。



すると、漸くここで静雄は微笑み――幾分か小さい帝人に触れるのだった。





顔が見たくて会いに来た
(素直になんて、恥ずかしくて言えないし…)





―――――


全く自信がないのに企画に参加したくて参加したらこんな駄文。
いいネタが思い付かなくてこれでいいのか四苦八苦。
でも他のよりは良いと思って…思い込んで提出します!

素晴らしい企画をありがとうございますね、うららさん!
今でもそのうち夢でしたって言われそうで怖いです…。

そして、ここまで読んで下さった読者の方にも感謝です。
私の作品を読んだせいで目が節穴になったら言って下さい。
願掛けします。←







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