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どうしたらいいのか分からずいると、男はすっと僕のズボンの間に手を入れた。

「やッやめて下さい、離して…!」

震える小声で言っても、相手が聞くはずもなく。
どんどん、手は侵入してきた。

「…へえ、君、尾形敦人君って言うんだね」
「え…、あ…」

制鞄に付いているネームタグ。
恐らく、それを読み取ったのだろう。
“名前”を知られたというのが、少し怖かった。
そうしている間にも、男の手は下着に入る。

「い――ッ、や…!」

何故だかあまり生え揃わない陰毛を触り、更に自身をも手の平に包まれる。

「や…ッ!やです、やめて、下さい…ッ」
「ほら、大きい声出すと周りに見付かっちゃうよ」
「……っ…!」

うるんだ眼で見回す。
恥ずかしいけど、なんならいっそ気付いてくれた方がいいのに、まだ誰も気付いていないようだ。
言われて大人しくなった僕を良いことに、男は丹念に先を愛撫し始めた。
ああ、もう、流れる景色はいつもと変わらないのに。

「ひゃ、ぁ、は…っん!」
「ほら…、もう濡れて来たよ…きもちいの?震えてる」

男に言われた通り、小さな水音が聞こえてくる。足も震えて、いまにも座り込んでしまいそうだ。

「おねが、します…っから…もうやめ…」
「ん?イきそう?敦人君、早漏なのかな」
「ち、ちが…!」
「違わないじゃないか」

突然言われて、顔に赤みがさす。
自分でしてるのとはわけが違って、快楽から逃れられない。
アブノーマルな場所も手伝って、もう限界に近かった。
ふと窓に映る自分を視る。赤い頬に濡れた眼、与えられる快感にいちいち反応する身体。

(なんだろう、この状況…)

客観的に、そう思う。
娼婦のように媚を売った顔が、自分だとは思えなかったから。

そういえば、最近男に抱かれた夢を見たことがある。
こんな電車の中では無かったが、起きてからの虚脱感と名残惜しさは非日常的だった。
触れられると、淫らな言葉を叫ぶ自分。夢の中とは言え、異常だった。
――それが、現実になってしまっていたら?
そう、いまの状況はそれだ。
夢と現実は違う、のだ。無知な自分には、恐ろしさが伴う。

「や、ひ…っ!あ、やだ、立ってらんな…」
「おっと。変に思われるからちゃんと立ってね」
「ひぅ…っむり、です…っ!」

変に思われる、なんて言われても。
遂に周りには気付かれているようだ。止められない嬌声が、どうしても大きくなっていく。
関わらないのが自分のため、なのか。誰ひとりとして助けてはくれない。

「あ、駅着いちゃうね」
「……っ、!?」

確かに、もう駅に着く。
焦って身じろぐと、男はひょいとヴァイオリンのケースを僕から奪った。

「…!や、返して…」
「はは、こっちだよ。敦人君」

開いたドアから出ていく男。
僕は慌てて身を整えると、学校なんて忘れて男を追った。
あれは父が、離婚する前に買ってくれたものだ。奪われるわけにはいかない。
男は付いて来ると知ってか、わざわざ僕を確認しながら逃げた。
わかってる、これは罠だ。
だけど。

「つかまえた」
「あ…!」

駅を出て、男があまり使われていないトイレに入る。続けて追うと、ばっとおさえられた。

「や、だ…っ離して…っ」
「返さなくていいの?これ」
「…ッ!か、返して下さい!」

男が意地悪そうに笑い、トイレの個室に無理矢理僕を引っ張った。


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