+α 嫁っていうのは、やっぱり家事洗濯何でも出来なくてはならない。とまぁとくに俺は気にしないが、やらせてみることにした。 「これが包丁…?」 「うっわあぶねえ!振り回すな!」 「これで何をせよという」 すっかり忘れていたが、相手は人間じゃないのだ。人間の常識は通じ無かったのをいま、まざまざと思いだした。 「これはな、料理に使う道具で…食材を切る…」 「…こうか?」 「ちょ、おま!指!」 「……あ」 ざっくり。 ああ、ベタだ、ベタすぎる! まだ何も切ってないうちから指を切った。 ここまでくるとドジッ子では済まされない。 「あーもー、大丈夫かよ!?痛いか?」 「だ、大丈夫…」 「見せてみろって!」 俺は狐の指を引っ手繰って、指の手当を始めた。 「す、すまない…その、よく分からなくて…」 「ああ、いーいー。俺が無理矢理やらしたんだからな」 「……。迷惑を掛けてばかりだな」 すっかりしょげてしまった。 ああもう、そんな顔も可愛いんだけどお前。 と、そこへ前述の男色男がやってくる。というのも、晩飯はたまに村長の家に集まって食べる習慣があり、今日がその日だった。 「よう、早太郎」 「あれ?小鉄だれソレ。彼女?」 「んー…?嫁だけど」 「嫁ぇ?お前その歳で結婚したんかよ?」 「あ、いや別に結婚はしてない。だってコイツ男で神様だから出来ないし…」 言ってから気付いたが、そういえばこの神様は男なんだった。早太郎の前でこんな話をするのは普通は厳禁だ。俺は今まで女をとっかえひっかえやってきたが、コイツはその男版というに等しい。 「男!?この顔で!?この耳で!?」 「…?ああ、我はオスだが……」 「おい小鉄、お前にゃ勿体ない俺にくれ。是非くれ」 「はぁ!?やだよ!」 ちょ、おい、肩を抱くな!俺のモンに触んな! 一方の狐はというと、不思議そうに早太郎を見ている。 「なー、兄ちゃん俺のモンになれよ。コイツよりずっと満足させてやるぜー」 「……それは、断る」 「なんでだよ。コイツ親もいねーし貧乏だぜ?そこまで格好良くもねーし」 そこまで大人しく聞いていて、狐はキッと早太郎を睨んだ。 「貴様ッ!小鉄を愚弄するのは許さん!親がいなければなんだ、我が父でも母でも、兄でも姉でも、なんにでもなってやる!だからお前にどうこう言われる筋合いはない!」 俺も早太郎も、ぱちくりする。 狐は怒ってそっぽを向いてしまった。 「…お前の嫁さん、男前だな」 「俺も今そう思った」 ああ、近い将来、鬼嫁になるかもしれない。 でも彼が言った言葉はとても、嬉しく思った。 [*前へ] |