3
「口、開けて下さい」
ふと呉真が言う。
誰が言いなりになんかなるものか、と気を張った。
奴は其れが面白いのだとでもいうかのようだ。
「可愛いな…楓」
「…っ」
名で呼ばれ、驚愕から青ざめて赤みがひいた顔に、また熱がともる。思わず口を開くと、呉真は無理矢理口内に舌を侵入させた。
「ふ、っんぅ…!」
なんとか自由な足で押し返そうとするものの、うまくいかない。
気持ち悪い…!
其れが簡潔な感想。ざら、とした男の舌が自分の口内で暴れているのだ、当たり前だ。
「やめ、…っく」
我慢の限界だ。
思いっきり舌を噛んでやると、口に血の味が広がる。
呉真は身を引いたが、何でもないという風に笑っていた。
「…死ね、変態」
「死なないよ」
悪態をついてみたが、もはや此れも効く筈が無い。
薬の効果が続いているのだろうか、頭では何も良い考えが浮かばなかった。
そうこうしているうちに、呉真の手が私の衣服に伸びる。真っ白な頭で考えても、此れは阻止しないと後々不味い。
「っ、貴様っ…!何が気に入らない!」
「え?」
「報復のつもりなら目的を言え!」
言うと、呉真は不思議そうな表情をした。
「俺のことが気に食わないのは貴方の方でしょ?」
「はあ?」
強いて言うなら其の報復かな、と続ける。今度は私が聞き返す番だった。
確かにそういう会話はしたが、私はそんなことを聞いているわけじゃない。
しかし、文句を言い返そうにも、うまく言葉にならなかった。
少し間が空いたが、呉真は構わず衣服を割って素肌に指を這わせた。
「あったかいな、寝てたからですかね。外で触った時は冷たかったのに」
「…!」
余計なことを言わないように押し黙っていた私は、ぼんやり思った。
別に、いまこうして縛らなくても、寝てる間にどうにか出来ただろうに。
して欲しかったとかそういうわけじゃなく、ただ単純にそう思う。
突発的に其れを聞こうと口を開こうとしたが、肌を触っていた掌がす、と腰を撫でる。背筋に走った悪寒も手伝って、言葉をひん飲んだ。
「…っ、」
肌が少し外気を感じ取る。気付くと衣服はほとんど剥ぎ取られていた。足の間に割って入られる。
抵抗も虚しく、呉真の指が自身を捕えた。其の感覚に思わず身体が震える。
「…っ、触るな…!」
「其れは、聞けない御命令ですよ」
「あ…っ、ばか…!なにして…っ」
呉真がそのまま唇を添える。驚いて自由にならない腕で制止を掛けようとするも、構わず口に含んだ。
「や、あ…っ!やだ、やめ…ッ!」
嫌悪とかそういうことよりも、羞恥が何よりも勝る。
高みへ上り政界を動かす歯車になるためと、女性とすら恋愛等は為なかった。ましてや、他人と交わることなんて、全く。
そんなわけで、自分がされて嫌だとかなんだとかよりも、とにかく醜態を晒すのが恥ずかしい。
「やだ、って。可愛らしいですよ」
「――…っ!」
口を離し、指先で弄び始めた呉真に指摘され、頬に熱が集まるのが分かる。
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