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新聞の一面に、でかでかと掲載された記事。
其れは毎夜毎夜、美術館やドールショップをターゲットとした、球体関節人形を盗難する怪盗の記事だ。
人形だけじゃなく、展示品の拷問器具やロリータ系ブランドショップの服、靴、小物、それに歴史のあるミステリー小説の原本や初版本。その怪盗の姿は男性であるとも、女性であるとも言われている。
巧妙な心理トリックを使った犯行の様子から、人々は、怪人二十面相、と呼んでいる――…。

「へー。変な奴がいるもんだねえ、この国にも」

その新聞を片手に、事務所の椅子に座る探偵事務所長の乙桐。和田木は不思議そうに声を掛けた。

「所長は、関与しないんですか?」
「なんで?」
「だって、怪盗と探偵は対峙するものと昔から決まっているじゃないですか」

ああ、と乙桐は乾いた笑いを漏らす。

「僕は、変態にはあんまり関わりたくないんだ。特にこんな、尋常じゃない変人にはね」

和田木が煎れた茶を手に取ってすすると、ぼんやりと言った。

「にしても、二十面相とは奇特な名で呼ぶものだね。かの明智小五郎と小林少年率いる探偵団が戦った相手だ。こんな変態には勿体無いよ。こんな奴より――」

ぺら、と新聞をめくると、そこにも盗難の記事が載っていた。
それを和田木も覗く。

「この、ちゃんと価値のある宝を盗む奴をそう呼んで欲しかったな」

――またも現る、怪盗ベリル!

「その方が、ずっとステキだと思うんだけどなあ」






――…。
郊外の、山の麓にある木造の家。
男はインターホンを押した。
通常ならピンポン、やら軽快な音が流れる筈だが、ゴーン、ゴーン、と鐘をつくような音が響いた。

「はい…。…なんだ、ロリショタじゃないのか…」

中から顔を出したのは、ドールのような顔をした人間だった。
彼こそが、世を騒がす二十面相その人であり、訪問者である男こそがベリルなのであった。おそらく、今までに顔を合わせたことはない。

「ろ…ろりしょた……?」
「…あれ、良く見たらベリルだ。僕の家に怪盗のベリルがいる。不思議だな…」
「……、此処で間違いはないと思ったのだが…お前、」
「僕はあんまり大きい種類の人間は家に入れたくないんだけど」

二十面相はちょいちょいと手招いて、中に引っ込んだ。
それに続いて、ベリルも中に入る。

「どうやって此処が分かったの?」
「…役職上、隠れるのに都合の良い場所の目安はつく。それで少し調べた」
「用事は?」
「今度の盗品、」

言うと、二十面相は振り返ってベリルを凝視した。
最低限の灯かりの中で、お互いにあまり表情は読み取れない。

「お前も狙ってんだろ。手を引け」
「どうして?自信があるなら、僕より先に盗ればいいじゃない」
「他の誰かなら、そうする。しかしお前の手口はいかに考えても理解が出来ない」
「なーんだ、お手上げってこと?そんなに欲しいんだ、アレ」

二十面相は笑って、シャッと部屋のカーテンを開く。


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あきゅろす。
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