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幼い頃は鬼才、と唱われた童子だったらしい。此の呉真という男は。
確か親の方は其処まで高い位では無かったと思う。しかし奴は次男にして、政治を動かせる程の地位に就いた。
奴を気に食わないとする卿も沢山いるだろう。しかし私は、そんな単純な意味で呉真に食って掛かっているわけじゃない。
むしろ私も、彼と変わらぬ年頃の時に官職に就いた。毛嫌いする理由は、其処にはない。

「以上で、法案の説明を終了致します」
「へぇ、なかなか着眼点が良いじゃないか」

酒宴で新法案の説明を聞き、将軍が頷く。
そう、先日から私が気になっているのは其の法案だった。上っ面からすればそれは神の業績に等しい程完璧なものだろう。しかし、やはり若さ故というか、私からすれば幾つか落とし穴もある。

「私は、反対だ」

酒宴が済んでから、私は帰路の呉真を引っ掴んで言った。

「劉殿、…何か御不満でも?」

奴の、漆黒の髪の下に在る藍の瞳が、此方に向けられる。私はとりあえず気に食わない、という顔付きをした。

「お前はもう少し先を見据えて物を考えるべきだ。其れだと失敗すれば国の大赤字に繋がる」
「…そう、ですね」
「だから、其の時に見合ったものを事前に」

私が言い終わる前に、其の言葉は中断された。
何か、視界が霞んだ気がした。めまいでも起こしたか、と頭を抱えた。

「…劉殿?お体の加減でも?」
「…、いや…、っ…」

すぐに治るかと思ったが、それは加速しているようにも思える。
気が付けば、私は膝を付いていた。酔いが回ったのだろうか、と何処かぼんやりと考えていると、呉真も膝を折る。ふらふらする頭で確認出来たのは、耳元で囁かれた言葉だった。

「薬、効かないのかと思った」
「…っ、何を」
「酒宴の最中に連れ出そうと思ったんだけど、余り酒に手を付けないから」
「……っ」

呉真を睨みつけると、ふっと意識が遠のく。
私は眠りの底に落ちた。


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あきゅろす。
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