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10
 
翌日、俺は知らないうちに昨日妨害してしまったらしい書類の作成を手伝っていた。
 
「…本当に天子とはなんでも無いんだな?」
「そー言ってるじゃないですか。妬いてくれるのは嬉しいですけど、もうちょっと信用してくれても…」
「ば…っ妬いてない!」
「どーだか」
 
笑うと、手にしていた厚い本で頭をぼかっ、と殴られる。
其処へ、同室の官吏がやって来た。

「あれ、劉さん。昨日丸一日いなかったのに、ちゃんと書類出来てますね」
「当然だ!誰に向かって物を言っている」
「……あ、良かった。機嫌直ってるじゃないですか」
「…は…?」
 
…此の男、随分仲が良さそうだ。
ああ、嫉妬しているのは自分の方だな、なんて。
官吏をじろ、と睨むと、奴はひらひらと手を振って来た。彼的に、挨拶のつもりらしい。
誰が返してやるもんか。

「…呉真、どうかしたか…?」
「いやっ別に!何も!」

そうか?と鈍感な楓は小首を傾げる。彼も彼で、無責任なのだ。しかし其れを指摘すると、きっと怒るだろう。
あ、そうだ。

「其れ、上に持って行かなくて良いんですか」
「あ?ああ…其れはそうだが…」

何しろ、彼はまだへばっている。昨日腰を使い過ぎて、痛いらしい。

「じゃ、連れてってあげますよ」
「は?え、うわっ!」

所謂、お姫様抱っこという奴だったりする。
降ろせだの何だの喚いているが、そんなの無視。見せつけるように官吏に一瞥すると、俺は楓を連れて部屋を出た。

「……あの劉さんが、ねえ」

空っぽの部屋で、官吏は呟く。そして微笑ましいものでも見たかのように、笑うのだった。

「お、降ろせと言っているだろう…!恥ずかしい!」
「まだ早朝ですから、余り人はいませんよ」
「居るじゃないか!現に今数人横切ったじゃないか…!どうしてこんなことをするんだ!」
「…強いて言えば、飼い猫が他人の家で餌もらってるみたいな感覚だからですよ」
「……わからん…っ!」
 
分からないだろう、そうだろう。
貴方はこれから、ずっと俺に独占されるんですよ。


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