6 彼は床に座っていた。驚いた拍子に此方を見たのだが、俺の顔を見るなりぼろぼろ涙を溢す。 余りにも可愛いからそのまま押し倒しそうになったが、其処まで酷いことはするものかと理性を保った。 「…っ、あ…」 何か言おうとしているようだが、うまく言葉に出来ないようだ。 とりあえず、何をしたらいいかわからなくて抱き締めた。 「…、やめ…っやだ…」 ぐ、と腕で押し返そうとする楓。 拒否されるとアホみたいに凹むが、気落ちしている場合じゃない。 押し返されないように、痛いかもしれないけど、ぎゅーっとする。押し返せないと分かった楓は、諦めて力を抜いた。 「楓、泣かないで」 「……っできな、い…」 「…?」 彼は涙声で言う。 「なんで哀しいのか、分からない、から…止まらない…」 腕の中で震える楓。 聞いていると、疑問がぽっかり浮かんだ。 此の人は俺のことどう思ってるんだろう。分からない、ってなんだ?俺に怒ってるんじゃないのか? 彼は鈍感だと思うが、自分もそうだ、と自嘲した。 兎に角どうにかせねばならない、困惑してるだけじゃ話が進まない。 とりあえず椅子とかに座らせようと中腰になると、楓に裾を引っ張られた。 「うわ、っと」 「あ……」 ぱっと手を放される。 笑って、何処にも行きませんよ、と言うと、少しうつ向いた。 抱き上げて椅子に座らせると、突然ぶにーと頬を引っ張られる。 「い…何すんですか」 「ばか。お前なんかどっか行っちゃえ」 「行きません」 「なんで」 「貴方のところにしか、居たくありません」 「冗談ばっかり」 「…冗談じゃ、ありません!」 この人は、また俺の想いを汲もうとしないのか。 思わず語尾を荒げる。 と、濡れた眼でキッと睨んできた。 「そんなことばかり言って、お前は無責任だ。…私が、どう思ってるかも知らないくせに」 「…無責任?」 「言うだけ言って、中身が無いじゃないか」 「…そんなことありません。じゃあ、劉殿はどう思ってるんですか」 視線は反らさず、じっと見つめる。 しかし彼は視線を外し、長い睫毛を伏せた。 「…きらい」 「…。なら、仕方ないですね。好きな人に嫌われるくらいなら、もう何も言いません」 「………ばか」 「…馬鹿ってなんですか」 怪訝に思って覗き込むと、またぼたぼた涙を落としている。 ――泣かせたい、わけじゃないのに。 「…嫌いな奴と、…四六時中一緒に居たりすると思うのか、お前は」 「…俺なら、思いませんけど」 「――それなら、」 哀しみに濡れた瞳が、真っ直ぐ俺に向けられた。 「それなら、私の気持ちが分からないか!?嫌いなわけないだろ、其れぐらい気付け!」 …凄く、変な顔をしてしまったと思う。 此れは、告白と取ってもいいのだろうか。 「あの、劉殿は俺のこと好きだったんですか?」 「私も今知った!」 「なんだそれ…」 当の本人も、何とも言えない顔をしている。 ――でも、なんだか其れがおかしくて、笑ってしまった。 [*前へ][次へ#] |