終わらない世界の中で
04
『九代目がそんなこという筈ない』
「俺だってそう思ってる。だからこの勅命見た時は目を疑った。でも何度読み返しても書いてあることは変わらねぇ」
嘘ならどんなに良かったか…。日本に来る前九代目は私に言った。「沢田綱吉を頼む」と。なのに今更ザンザスの護衛なんて十代目ボスを彼に任せるとはどういうことなのか九代目が一番分かってる筈だ。
「…変だな」
「九代目は一体何を考えているんだ…」
そんなの私が知りたい。突然意思を変えるような方じゃなかったのに。
「ヒカルはどうするつもりなんだ?」
『直接会って確かめる』
何かの間違いかもしれない。きっとそうだ、九代目に直接聞かなければ納得いかない。イタリアまで半日あれば着く。だから…。
「それは止めとけ」
『なんで』
「ヴァリアーと鉢合わせしたらどうする」
『その時はその時。てか襲われる理由ないと思うんだけど』
「充分にある。単独行動はするな」
『リボーンに命令される義理はない』
「ディーノだったら聞くのか?」
『………』
リボーンを睨めば彼の大きな瞳もこちらを睨んでいて気持ち悪くなった。
「そうカッカすんなって。ヒカルはいつも通りツナの護衛をすればいい」
『そのつもり』
ディーノに諭され苛々が治まらずドアに手を掛けた。
『んじゃもう帰るから』
有無を聞かず病室を出るとむしゃくしゃしてるせいか無性に走りたくなり全力で走った。
もっと早く早く早く!
どれくらい走ってたんだろう、疲れて立ち止まると額にうっすら汗を掻いていた。暑い…自分の荒い息遣いが聞こえる。
あ…ここ前に子供達と遊んだ公園だ。家に帰る気にもなれずベンチに座り遊具で遊ぶ幼い子達をボーッと眺めた。気づけば遊んでいた子達はいなくなり公園は妙に静まり返りなんだか虚しくなった。
『…帰るか』
アパートに帰っても誰も迎えてはくれない。一人暮らしで自分しか居ないのだから当たり前だけど今はそれが寂しくて悲しくて泣きたくなった。なんでだろう、急に人肌恋しくなるなんて…ホームシック?私が?馬鹿だ。馬鹿ばかバカ。
家に着くと鍵が開いていた。しかも男物の靴がある。え、誰かいる?誰だろう…リボーン?んなわけないよなぁ…誰も思い当たらない。入ってくと先程会ったばかりの人物がソファに座っていた。私に気づくとニコっと微笑む。
「おう、おかえり。遅かったな」
『…ただいま。なんでディーノがいるの』
「久しぶりに二人きりで話したくてな。勝手に上がらせてもらった」
『さっき話したけどね』
だからって鍵…不法侵入だぞ。まぁ彼ならいいか。これがシャマルだったらもう二度とここには帰らない。
ウィッグを取り隣に座った。
「やっぱその姿の方がいいな。普段もそのままでいればいいのに」
『同じようなこと言われた』
「誰に?」
あ、ヤバッ。余計なこと言っちゃったどうしようどうしよう。ディーノってば真顔だし距離も近いような…絶対近づいてきてるなコレ。
『近くないかな』
「顔逸らすからだろ」
『だとしても近づくことないじゃん』
着替えてくる、とソファから立ちリビングから離れた。
部屋着に着替え戻り今度は少しだけ離れて隣に座った。
「なんか変わったな、ヒカル」
『そう?』
「日本に来る前はもっとこう…難しい顔してたけど今は柔らかくなった。なんか良いことあったのか?」
『なんもないよ。散々な目に…』
この話は止めよう。愚痴ばかり言ってしまいそう。
「…腕の痣どうした」
『腕?…ああ。依頼でしくじっちゃって』
見つけたのは小さな痣だった。
「嘘吐くなよ」
『吐いてない』
突然腕を掴まれ振り払おうにも強くてされるがままに服を捲られ複数の痣を見られた。
「こんな…」
『だから依頼で』
「ここ一ヶ月依頼受けてないのは知ってる」
『な…なんでそんなこと知ってるの』
「それは…」
『私ってディーノにも信用されてないの?』
「違う」
『今までずっと監視してたんだ…』
「違う!」
『何が違うの!?』
「心配なんだ、ヒカルのこと」
『よくそんなこと言えるね。信じられるわけないじゃん』
「頼むから話を聞いてくれ」
『何も聞くことなんかない。帰って』
両腕を掴まれた。
『離して!』
痛い痛い痛い怖い怖い怖いやだやだやだやだ。
『んっ…』
口内に舌が入って侵していく。ああ、頭が変になりそうだ。両腕は拘束され逃れられない。こんなの私が知ってるディーノじゃない。唇を噛んだ。それでやっと解放された私は壁に寄りかかりその場に座り込む。
『…帰って』
「ヒカル俺は」
『お願い帰って!』
玄関の扉が閉まる音が聞こえ出て行ったのだと理解した。彼がどんな顔してたなんて分からないし知りたいとも思わない。
涙が止まらなかった。
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