終わらない世界の中で
03
『手、離して』
「嫌だ」
前もこんな会話したな…これは幾ら言っても無駄という事だ。
「僕が起きてないとでも思った?」
『……』
よく考えれば分かる事だ。雲雀が起きない筈がない。出来るなら五分前の自分に戻りたい。
『…いつから起きてた』
「蓮が来た時かな」
『最初からじゃん!』
「そうなるね」
騙された。すっかり寝てると思ってた。
『何で寝てるふりなんか…っ』
「面白そうだったから」
『悪趣味…』
そう言った途端ソファに押し倒された。突然の事で意味が分からない。身動きがとれない。小声で言ったつもりなのに聞こえてたんだ…。こんな近くにいるんだ、聞こえない訳ない。言った自分も馬鹿だ。
『何してんだっ!』
「見て分からない?押し倒してるんだけど」
『どけ』
「嫌だ」
ああっもう!
何でこう我が儘なんだ。何がしたいのかよく分からない。
「ねぇ、僕の目を見て」
ネクタイを掴み顔を引き寄せる。正面に見れないから顔を背けてたのにこれでは前を見るしかない。目に雲雀の顔が間近で写る。
『…っ』
さっきより物凄く近い!青褪めてた顔が熱くなっていくのが分かる。恥ずかしいと思わないのかこいつは。
直視していられなく目を横へ泳がせる。
「本当の名前、教えて」
『俺の名前は一条…』
「そうじゃない。変装してるんだからそれは偽名でしょ」
『こっ…今度教える』
雲雀の目を見てたら確実に言ってしまってた…言えるわけがない。今度、というのは勿論嘘。
「それじゃあ次に期待してるよ」
ニヒルに言った。
彼には逆らわない方が安全そうだ。
「カツラなんだっけ」
『え、あ、』
頭に添えられた手はパサッとカツラを取り金髪の髪が露になる。
「…綺麗だ」
手で髪を梳きながらためらいもなくサラッと恥ずかしい事を言う。本当に中学生?俺より充分大人びて見える。
ああ…平気な顔していう雲雀はタラシなのかもしれない。
「そのままでいればいいのに」
『馬鹿。そしたら変装してる意味ないだろ』
「…それもそうだね」
妙に納得し微かに笑った気がした。彼も笑うんだ…。意外な一面が見れた気がして嬉しくなった。
『俺…私は雲雀の方が綺麗だと思う』
今度は逸らさず目を見てちゃんと言った。空いてる手で髪に触れる。ワックスなんて余計な物は付けていなくサラサラだ。
「……」
僅かだがほんのり雲雀の顔が赤く染まった。それを悟られない為かソファから立ち上がり机に向かう。
結局本当に何がしたかったのか分からなかったがやっと退いてくれた。上半身を起こしソファに凭れ掛かった。心臓がまだ煩い。
「あとこれ。頼まれてたユニフォーム届いたよ」
『おおっ!ありがとう』
「それくらいいい」
素っ気ないが優しさを感じる。
『渡してくる!』
その場に居る事が恥ずかしくて真新しい白いユニフォームを持ちカツラを拾い装着して応接室を出た。
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