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終わらない世界の中で
02



鋭い目が私に向けられた。

「次はお前だ」

冷めた目が私を捉える。
次は私が実験体なんだ、またあの痛みを味わうのか。
嫌だ来るな…来るな!

「暴れるな!」

『放せっ!!』

「大人しくしろ!」

幾らもがこうが所詮大人と子供、力で敵う筈が無い。髪を掴まれ無理矢理実験台に縛りつけられる。次々と薬が交じり熱を帯びる。

『うああああああああああ!!!』

痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!
全身が焼ける様な感覚に襲われる。麻酔なんてあるわけもなく骨が溶ける程の耐え切れない痛みが全身を駆ける。既に限界なんて超えてる。足や腕を動かしたいが四肢を固定され動かせない。もがき苦しむのを見ても何も感じられない大人に日々憎しみを募らせる。

「薬の分量が足りないな」

「増やしてみるか?」

「いや、コイツはもう暫く使えない」

ドサッ
『(痛い…)』

雑に実験台から剥され床へと無造作に投げつけられた。床には実験道具が散乱していて額を何かで切ったらしく自分の血が床を汚す。なんて、汚い血。涙なんて出ない。泣きすぎて枯れてしまったのかもしれない。

いつまでこんな事繰り返せばいいんだろう。こんな事ならいっそ死んでしまいたい。生きる理由なんてないのだから。生きていても辛いだけだった早く一思いに楽になりたい。
銃なら、頭を打てば死ぬだろうか。狙うなら心臓が確実か?

手元には硝子の破片が落ちていた。それを拾いそっと、静かに自分の手首に当てる。…愚かだと分かってる。だが此所に居る時点で正常な思考などある筈ない。

「大丈夫ですか?」

硝子の破片を自分の後ろに隠した。
遠慮がちに話しかけて来たのは右目にガーゼを付けた大人しい男の子だった。此処に来て初めて心配された気がする。皆自分の事で精一杯だったから。

『……』

無意識のうちにそっと右目のガーゼに手を寄せていた。

「…どうかしましたか?」

『…目……』

彼は「大丈夫ですよ」と笑った。大丈夫な訳ないのに。自分だって痛くて痛くて堪らない筈なのに…。何故そんな顔していられるの?どこにそんな余裕があるのだろう。

いつも何も喋らず比較的地味な子だった。だから名前も年齢も何一つ知らない。彼だって私の名前知らない。

「僕は骸といいます」

『む…く……ろ?』

名前を呼ぼうとしたが喉が痛く思った通りには出なかった。出たのは小さな掠れた声。

「はい」

名前を呼ぶと嬉しそうに微笑んだ。

『わた…し…ヒカル』

「ヒカル。僕と一緒に来ませんか?」

『ど、こ…へ?』

もう、実験なんてしない所?

「そうです」

その言葉に希望が見えた。行きたい、私も行きたい。けどどうやって?大人達は沢山の武器を持っている。私達が敵う筈ないんだ。

「僕に任せて下さい」

何故だろう、その言葉に酷く安堵した。

「少しの間目を閉じて下さい」

『……』

声が掠れて出ない為大人しくこくっと頷く。


刹那に聞こえたのは断末魔の叫びと肉片の飛び散る音と刺す音。その生々しい音に怯えた。
やがて何も聞こえなくなった。

「耳も塞げば良かったですね…もう開けてもいいですよ」

『……』

中々怖くて開けられないでいると骸が優しく「大丈夫」と囁いた。
思い切って目を開けると先ず目に飛び込んだのは血まみれの骸の姿。だが当人は傷一つついてなく返り血だと言って笑った。
…ガーゼ取ったんだ。縫い目は目立つものの綺麗な紅い瞳だった。


「僕と一緒に行きませんか?」

もう一度問うた。今度は千種と犬にも。

虚ろだった瞳に光が宿る。
この時初めて居場所が出来た。誰にも必要とされなかった私が必要とされてる、それだけで嬉しかった。

答えなんてもう決まってる。


差し出された手をギュッと握った。

(この人に一生ついて行こう、と思った)





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あきゅろす。
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