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終わらない世界の中で
01



人は目にしたものしか信じられない。なら偽りの表情で覆い隠そう。所詮人は信じたいことを信じるのだから。信じたいなら信じればいい。その信じる心で。


昨日起きた事が何度夢であってほしいと願い眠りについた事か。そんなの有り得ないと分かっていても心のどこかで願わずにはいられなかった。何かに縋りたかったのかもしれない。

『っつ……』

自分にしては珍しく自然に目覚めたがそれと同時に体に広がるのは殴られた痛み。その痛みに顔を歪ませる。
改めて痛みを感じ昨日の出来事は夢じゃなかったと、本当に起きたんだと思い知らされる。

『(この痛みのせいで早く起きたのか)』

山本に殴られた頬がまだ痛い。口の中は切れててまだ傷が塞がっていない。気持ち悪い…鉄の味がするしジャリジャリすると思ったら砂が入ってるしで最悪だ。

『本気で殴ったんだ…』

山本にとって奏美という人物はそれほど大切な人だったんだ。勿論俺が女と知らないので手加減無し。女だと知ってたら手加減しただろうか?…否、女だと分かっても本気できただろう。お世辞ではなく可愛いし普段の振る舞いからして好かれてるだろうとは思ってたが誰も本性を知らない。みんな騙されてるのに気づいてないんだ。きっと知らず知らずの内にいいよう利用されてるに違いない。俺はそんなの絶対嫌だ。いつの間にか下僕に成り下がる。
哀れだなぁ…なんて思いながら洗面所へ向かい鏡越しの自分の姿を捉えると頬が紫色に腫れていた。
…酷い顔。昨日こんな顔してたんだ。我ながら気持ち悪い。さぞかし昨日の自分は醜かっただろうに。水が傷口に染みる。血出てるとこに絆創膏だけ貼っとこ。湿布はヒリヒリするだろうから止めとく。

あれ、今何時だろう。
時計を見ると時刻は八時を回っていた。
うわー…ダメだ。今から行っても完璧遅刻、間に合わない。(走れば間に合うがもう走る気なんて毛頭ない)これから着替えて準備したら更に遅れる。転校早々遅刻って…まぁ、今日はいっか…だが学校は絶対に行かないと。俺の任務は沢田綱吉の護衛。何が遇っても傍を離れるわけにはいかないんだ。守る程の価値があるか、なんてのは後から考えればいい。まだ中学二年生少し馬鹿でも許されるだろう。いつか自分であの時は愚かだったと気づけばいい。果たしてその日は来るのか怪しいが。

俺のこの体は自分のモノであって自分のモノじゃない。
この命が尽きるまで守り続ける。

それが俺の役目であり使命。






あの後蓮はみんなから殴られ蹴られ続けた。何も抵抗しないので余計エスカレートしていき…見てるのが辛かった。

――助けたかった

だけど弱い俺に助けられる筈もなく爪が食い込むほど拳を強く握り締めただ見てるだけ。
女子は泣いてる奏美ちゃんを慰め、何処かへ連れて行ってしまった。

そして日が沈む頃になり漸くみんなから蓮は開放された。傍へ駆け寄ろうと足を踏み出した時、獄寺君に呼び止められ「早く帰りましょう!」なんて言われたら断られるわけも無く急ぎ足で帰った。
力無く地面に倒れた傷だらけの蓮をその場に残して。

悪いのは蓮だ。何度もそう自分に言い聞かせるが蓮のあの言葉、あの表情が脳にこびりついて離れない。『俺は何もやってない』『信じてくれ』悲痛の叫びが俺の心を抉るようだ。
本当にあの時置いてきて良かったのか、家に着いてからも罪悪感ばかりが募り夜も目が覚めろくに眠れなかった。









あきゅろす。
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