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終わらない世界の中で
01

初めて人を殺めたのはいつだったか…それだけは今でも鮮明に覚えてる。

忘れもしないだろう、あの日を。
あれ程までに同じ人間を嫌悪した事は無かった。


九代目は一切私に殺しの任務を与えなかった。まだ子供だ、だから死というモノに関わらせてはいけないとでも思ったのだろう。だが当時の私にはそんな九代目が理解できなかった。
大事にされてるのは嬉しい、だが正直とても歯痒かったんだ。

今よりももっと幼い頃、人通りの少ない裏路地で倒れてるのを運良く九代目に発見され、何故あそこで倒れていたのか理由も聞かず今は傍に置いてもらっている。後からマフィアだと知った時、九代目を殺そうとも思った。…だけどできなかった。全てを包み込む九代目のあの目が優しくて、温かくて…感じる事の出来なかった愛情というのを知った。
それからも何も聞かず置いてくれる。なのに私はなにもできない。早く役に立ちたい、恩返しがしたいのに!


だから、自分からやろうと思ったんだ。
世に名の知れたボンゴレファミリーの殺し屋となればその腕を買わない者はいない。子供だから余計な詮索はしないし扱い易かったんだろう、すぐに依頼を頼まれた。まさかディーノから教わった護身用の銃の使い方がこんな事に活かされるなんて誰が思っただろうか。

そして人間が愚かだと思い知る。死にたくないが為に必死に命乞いをする。大金を差し出せば助かると思い込んでいた。この時初めて人を殺す為に銃を向けた。人としてしてはいけない過ちを侵す。

覚悟していた筈なのにぶれる銃口、震える手のせいで上手く的が定まらない。

「やめてくれ」「助けて」耳障りな醜いそんな声を無視し銃を放つ。乾いた音が辺りに響いた。一発で仕留める事ができずもう一度見据えて二、三発放ち銃口から煙りが出る。そして声を上げなくなりピクリとも動かないと絶命したのだと理解する。


『嗚呼、殺した』

私がこの銃で、この手で!

安堵からカシャンと音を立て手から力無く銃が落ちた。辺りには異臭が漂う。それはきっと私からも…。
今私の心は悪魔のようだ。自分の欲望や欲求の為に人の血肉を貪り食らう。そんな自分に嫌気が刺す。闇夜の中月明かりだけが照らす自分の顔も今は悪夢のようにそう写るのか。自分が自分でなくなるみたいで悍ましくて堪らない。

『あはははっ!』

愉快だと言わんばかりに狂った様に笑う。
おかしい、笑えるじゃないか。だってもう、動かないんだ。あんなに喚いてた奴が今じゃ血まみれで床に倒れている。こんなに満たされた気分になるのは初めてだ。

笑い声が治まると虚しさだけが残る。
満たされた筈なのに空虚を抜け出せない。

この手は人殺しの手だ。分かってても止まらなかった、ただの人殺しの。

こんな者に自分はなりたかったのか、今まで殺したい程憎んでいたマフィアなんかに!


…違う、違うんだ。こんなのなりたくなかった。

(これでは以前いたファミリーと何ら変わらない)

ただ九代目の役に立ちたくて、九代目やディーノは他のマフィアやファミリーとは明らかに違う。



一筋の涙が流れた。

『なんで涙なんか…っ』

悲しい?
怖い?
安心した?

どれも違う。理由なんて自身にも分らない。


なぜ人間は罪を犯すのだろう。止められないのは、心の何処かでそれを望んでいる自分がいるからなのだろうか?それとも生まれつきそういうモノなのだろうか。


ただこの屍の中、思いのまま静かに啼いた。





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