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愛は僕等を救わない
04 ヒナタside

朝が来た。また何の変哲もない今日が始まる。早朝から小鳥の囀りが煩くて、だけど心地好くて。入院してから規則正しい生活が続いている。以前よりよく眠れるんだ。悪夢を見なくなったのが大きい。こんなに清々しい朝なんて久しぶりだ。
お腹空いた、朝ご飯まだかな。薄いご飯だけどお腹に入ればみな同じ。



時刻は午前十時。「如月 ソラ」そう記された病室の前まで来るのに何度も立ち止まり引き返そうか考えた。だがもうここまで来てしまった、今更引き返すなど出来ない。この日の為にお菓子だって作ってきたんだから!帰ってしまったら折角何回も作って一番出来の良いのを持ってきたのに渡せないなんて全て水の泡になってしまう。自分に言い聞かせ深呼吸した。…よし。
控え目にドアを叩くと中から返事が聞こえた。そうっと開ければ彼女はベッドから体を起こしこちらを見ていた。

『来てくれたんだ』

今日こそ大丈夫だと思ったのに目を見れない、合わせられない。視線を爪先へ逸らし吃りながら頷いた。

「これ…お菓子作ってきたの。良かったら食べて」

お菓子を差し出す時少しだけ顔を上げ見たのは顔半分が包帯に覆われて腕が肩からなく、痛々しい姿はあの時と変わらない貴方。

『ありがとう』

嬉しそうにラッピングされたお菓子を受け取る。
最近よく笑うようになったと思う(笑うと言っても少し顔が緩んだだけでその変化に気付くのはきっと私とシカマル君達くらい)。前は無表情で、怒ってるのか嬉しいのか分からなかったのに。それと態度や言動にも刺々しいのが無くなったような…。否、刺々しくはないか、ただ物事に不思議な程無関心なだけ。
ふとバッチリ目が合い思いきり逸らしてしまった。一瞬見た瞳はいつもの紅い色。それなのに怖くて堪らない。

『ヒナタ』

突然肩に置かれた手の感触にビクッと体が反応した。彼女はごめん、と謝り手を退けた。

『なんだか挙動不審だけどどうした?』

「会うの久しぶりでその、緊張して…」

『ヒナタらしい』

疑いもせず私を見つめるがやっぱり顔を見れなくて俯く。もしかしたらどこかで不信感を抱いていてそれを口に出さないだけなのかもしれない。ふと彼女の肩へ目線がいく。

「本当に腕ないんだ…」

『…ああ』

片方の袖は何もない。
彼女は決して苦しい痛い辛い、等弱音を吐かない。「もっと私を頼って」なんて言えたら。

『この花飾ってくれたんだってね』

「は、早く…良くなるようにって…。でもどうして?」

知ってるんだろう。頭に疑問符を浮かべていると花を見ながらいのちゃんから聞いたと付け足しもう一度『ありがとう』と心の籠った声で言った。素直にお礼を言うソラちゃんが珍しくてなんだか凄く恥ずかしくなった。顔が熱い、真っ赤になってるに違いない。隠すように喋り出す。

「その花はガーベラっていうの。花言葉は…希望」

クロッカスか迷ったけど薄い紫色のクロッカスを見てやめた。その色があの色にとても似ていたから。勿論紫の他にも白や桃色もあったけど気が進まずガーベラにした。店でずっと悩んでいたのを見兼ねたいのちゃんが「無難にこれなんてどう?」とガーベラを勧めてくれたからだ。最初はどれも色が濃くて派手すぎじゃないかと素直に頷けなかったけどガーベラのティアラピンクという淡い色の花を見つけそれに決めた。だから結局私は何も決めてない。花でさえ……。


『優しいね』

違う、違うんだよ。優しくなんかないの。私の優しさは全て偽善。本当に優しいのはソラちゃんの方。
私ね、あの日ソラちゃんが怖いと思った。殺されるんじゃないかって。
だから今日も行こうか迷ったの。本当は行きたくない、行きたくないけどソラちゃんは好きだから…でも怖い。おかしいよね。紅先生からは行くなって言われてたんだけど聞かなかった。「ソラちゃんは大切な友達だから」って。その時だけ粋がっちゃって馬鹿みたい。
実際は入院当日もお見舞いに行った、その次の日も。その時も会うのが怖くて、でもいのちゃんとサクラちゃんと三人で病室に入ったんだ。そして身体中包帯だからけで眠ってるソラちゃんを見て安心した。まだ起きてない。酷いよね、こんなの友達じゃない。

嫌われたくなくて一人になりたくなくて、思ってるだけで言えない私は正真正銘の臆病者。


(ガーベラティアラピンクのもうひとつの花言葉は祟高美)








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