愛は僕等を救わない
02
サスケを心配するサクラが痣のことで棄権を勧めたが聞く筈もなくなんとか言いくるめ参加者22名、11回戦行うことになった。中途半端だな…。それで勝者が第三の試験に進出できるという頭の固い僕にも分かりやすい仕組みだ。
電光掲示板に戦う者の名前が出る。
皆が見つめる中大きくサスケの名前が出た。対するは知らない聞いたことがない名前。黒い布で顔半分を隠した人がサスケをじっと見つめている。確かカブトさんと同じ班の人だ。
『頑張れよ』
「俺が負けると思ってんのか」
『まさか』
戯れ言はさて置いて、負けて悔しがってる面も見たいがここまできたんだ、勝ってほしい。実戦での動きをよく見ておきたいし。
審判に促され試合をしない者は皆上へ移動した。
これから第一回戦が始まるという時、僕は試合を見ず違う所へ歩き出すとサクラに呼び止められた。
「どこ行くの?」
『トイレ』
緊張感ないわねって怒られた。一体僕に何を求めてるんだ。
「サスケ君の試合が終わるまでに早く戻ってきなさいよ」
『分かったー』
返事をしスタスタ歩く。試合見たかったけど身体がこの調子じゃ先ず僕が試合に出れるのかも怪しい。
…トイレどこだっけ。行きたかった訳じゃないからいいんだけどさ。曲がり角を数回通った所で耐えきれなくなり立ち止まった。
『ゲホッ…』
口に手を当てるとドッと血が吐き出された。苦しい痛い辛い。
呼吸が荒くなりそのせいか涙が出る。咳は止まり胸元の服を掴み堪えるが苦しさは消えない。薬が、欲しい。
漸く落ち着き壁に背を預け床に座り目を閉じた。
暫くすると足音が聞こえ傍で止まった。知らない人だったらどうやって説明しよう…。
「ソラ」
この声は…カカシ先生か。
目を閉じたまま口を開いた。
『何か用ですか』
「そんな言い方はないでしょーに。具合はどうだ?」
『最高です』
「はぁ…」
目を開けたら手を額に当て頭を抱えていた。何そのやれやれ、みたいな。
『カカシ先生はどうしてここに?』
「サスケの試合が終わってな、病室に行ってたんだ。んで今は戻る途中」
『…試合どうなった?』
「サスケが勝ったよ」
そう簡単に負ける筈ないか…。
立ち上がろうとしたが胸が苦しくその場に踞った。
「おい!大丈夫か!?」
『…大丈夫』
支えられながらなんとか立ち上がった。
「苦しいなら正直に言え。何も一人で抱え込むことはないんだぞ」
…僕のことを知らない偽善者は必ず同じようなことを言う。頼れ、と。言ったところで状況は何も変わらないというのに。むしろ悪化してく一方だ。
カカシ先生は僕を気遣ってくれてる。それ故の発言だ。分かってる…なのに苛々が治まらない。
「今からでも遅くない。棄権しろ」
『……聞き取れませんでした。もう一度言ってくれませんか』
「この予選から下りろと言ったんだ」
『折角ここまで来たのに…それが上忍の言う台詞ですか!』
「ソラのことを思って言ってるんだ。お前にはまだ次がある。ここで潰したくない…何をそんなに焦ってるんだ?」
『次なんて…僕にはないかもしれない…っ』
感情的になるな。
唇を噛み締め顔を見せないように俯いた。こんな顔とてもじゃないが見せられない。
「どういう…」
知らないって顔してる。本当は全部知ってるんだろう、僕の知らないことまで。どこまで人を弄べば気が済むんだ。虫酸が走る。
限界だった。今まで溜めてきたモノが一瞬で砕け散る。
『先生には分かんないよな…』
「ソラ」
『僕のことなんてただの平均より能力の低い下忍とした見てない』
「ソラ…落ち着くんだ。俺は」
『先生に僕の気持ちなんて分かんない!ろくに知ろうともせず…分かってたまるか!火影から聞いてるんだろ?生まれてすぐ親を亡くし病気持ちの、治る見込みもない可哀想な子だって!!』
左頬に熱が走った。
叩かれたんだと分かるまでそう時間は掛からなかった。火影様は悪くない。身寄りもない僕に住む場所と無償で学校に通えるようにと手配してくれた。カカシ先生だってそこまで僕のことを考えてくれてるって証拠だ。
消え入りそうな程小さな声で言った。
『…ごめん、なさい』
「謝るのは俺の方だ。すまない…痛かっただろう」
左頬に触れた。先程とは違い今度は優しく慈しむような手だった。その手が上へ向けカカシ先生の顔と必然的に向かい合い視線がぶつかる。いつもの気怠そうな目ではなく穏やかな目でなんだか合わせるのも恥ずかしくなり目線を下げた。
『怖いんだ…。身体が得体の知らないモノに蝕まれていく感じがして…いつか僕が僕じゃなくなるんじゃないかって……』
「大丈夫。ソラはずっとソラだ」
多分泣きそうな顔してたんだと思う。知ってか知らずかカカシ先生の大きな腕が僕を抱きしめた。
大丈夫なんて不確かな言葉に酷く安堵した。
まだ僕は僕なんだと、ここにいていいんだと…。
『ダメだ…僕はずっと一人なんだから…』
誰にも頼るもんか。僕には僕だけがいればいい。
(誰ももういらない)
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