愛は僕等を救わない
02
『お疲れ』
戻って来たヒナタに声を掛けると控え目ながら笑ってくれた。
「緊張した…」
『その割には上手くできてたよ。あっ次ナルトだ』
「ソラちゃんっ!」
慌ててまた顔を真赤に染めるが生憎隣りに居た筈のシカマルとチョウジは変化のテストの為並んでいるのでいない。他の生徒らは相変わらず雑談。誰も訊いてない、筈。
『大丈夫だって。ほら見なくていいの?』
教卓の方に目を向けると丁度ナルトが変化の術をするところだった。
「えっ」
ぼんっ
バッと後ろを向くとタイミング良く(いや、悪く?)ナルトがイルカ先生ではなく裸の女性に変化していた。それはもう同性の僕から見ても羨ましいほどかなりスタイルの良いボンキュッボン。
『うわ最悪だ…』
ヒナタは恥ずかしそうに目線を下にずらした。余計なモン見せてしまった…幾ら同性でも目のやり場に困る。大事なとこはちゃんと隠れてるからまだいいが。
それを見たイルカ先生はイルカ先生で鼻血噴き出した。
『(男はあんなんがいいのか…)』
はぁ、と溜め息を吐く。
時々…本当に時々思う。ヒナタはあんな奴のどこがいいのだろう?授業態度は悪く不真面目だし(僕もだが)成績は常に最下位。自慢出来る事なんて何も無い。そりゃあ一緒にいたら賑やかで楽しいかもしれないが…現によくシカマル、チョウジ、キバ、ナルト、僕の五人で授業抜け出したりしてた。ヒナタは真面目だから誘っても遠慮して一緒にサボった事は無かったが。
「ニシシッソラどうだってばよ俺のお色気の術!」
結構良かっただろ?なんて言うナルトに反省の色は見られない。
『なんで僕に聞くんだよ』
どうと訊かれてもなんて返せばいいのか分らないじゃないか。一体僕をなんだと思ってるんだ。確かに良かったは良かったけど。でもそんなことは口が裂けても言わない。
『生憎僕はこれっぽっちも興味無いから。あ次僕だ行かなくちゃ』
適当に理由を付けてその場から離れた。
「次、如月ソラ」
『はーい』
名前を呼ばれ返事をし、怒鳴られながら何度も教わり身についた印を結ぶ。
ぼんっ
「よし、OK!」
僕の番も無事に終わり席に着くと窓に目を向けた。
外の天気は快晴だ。窓から差し込む陽射しはとても心地好く眠気を増幅させる。こんな日は睡魔に逆らわず寝るのに限る。
『ふぁ…』
本日二度目の欠伸をすると隣りから声が聞こえた。
「でっけぇ欠伸」
『なんだよシカマル。いいじゃないか眠いんだから』
「お前一応女なんだから手で押さえとけよ」
『一応って僕は正真正銘女だ。それに誰も見てないと思ったんだよ』
「全然女っ気ねぇのな」
『失礼な奴』
プイッと顔を逸した。
「冗談だっての」
『あーそうかい。僕は寝るおやすみ』
「毎日十時は寝てるとか言ってなかったか?」
『…寝れないんだ』
「寝れない?」
その言葉に訝しげに首を傾げた。
『うん。怖くて…笑っちゃうだろ?』
なんでもなさそうにヘラっと笑うソラはどこか哀しそうだった。
「笑わねぇよ…前言ってた夢のせいか?」
『……うん』
少し間を空けてソラは小さく頷いた。
いつだったか毎晩みる夢のせいで眠れないと言っていた事がある。その夢について詳しく訊かなかったがそこまで気にも止めてなかった。
「どんな夢だ?」
『んー…』
「………」
『………』
「…おい」
『………』
「ソラ」
いつまでも黙っているので名前を呼んだが返事はない。そっと顔を覗き込むと小さな寝息を立て気持ち良さそうに眠っていた。
「(黙ってれば…いや、止めとこう)」
夢のことは聞かれたくなかったのか本当に眠かったのか…本人から話すまで触れないでおこう。
ボーッと寝顔を見ていると欠伸が出た。
コイツを見てると俺まで眠くなってくる。
「寝るか…」
窓から降り注ぐ温かい陽射しを肌で感じ瞳を閉じた。
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