愛は僕等を救わない
05
どこにそんな筋力あるんだろう。見た目はガッシリした訳でもなく普通体型なのに体回復したかの確認とかで背中にタズナさんとサクラちゃんを乗せ腕たて伏せやってる。しかも人指し指一本で。服を脱いだら実は筋肉質でムキムキとか?…嫌だなそんなの。
「196、197…」
あと少しで200回。勿論最初は僕も乗れと言われたが断った。だって怖いじゃないか、急にボキっといったら…ないない、なんて笑いながらカカシ先生は言ったけど決して軽いとは言えない僕の体重…もし僕の体重のせいで悪化したら嫌だからだ。それが理由。
「ワシが任務の内容を偽ったのにどうしてお前らはここにいてくれるんじゃ」
「義を見てせざるは勇なきなり。勇将の下に弱卒無し!先代の火影の教えです」
『(199…)』
「これが忍の生き方…お金だけで忍は動くわけじゃありません」
『(…200!)』
すごっ!少しも息を乱さず会話しながら200回やり遂げた。タズナさん結構大きいからいつ体勢崩すかと見てる僕がヒヤヒヤした。
これでカカシ先生の体は完全に回復した…のかな。
『あ、帰って来た』
「…なんじゃお前ら、超ドロドロのバテバテじゃな」
外はすっかり暗くなり夜ご飯の準備も出来た頃、漸く二人が帰って来た。ナルトはサスケに支えられながらやっと歩ける状態。昨日よりもボロボロだ。
「てっぺんまで登ったぜ…」
「ナルト、サスケ。明日からお前らもタズナさんの護衛につけ」
おっナルトの顔嬉しそう。勢い良く頷いた。
「なんでそんなになるまで必死に頑張るんだよ!」
今まで静かだったイナリ君が何が気に食わなかったのか突然大声で喚く。
「お前見てるとムカつくんだ!」
潤んでた瞳は堪えきれなく涙が流れ泣きながら更に声を荒げる。
「お前に僕の何が分かるんだ!辛い事なんか何も知らないでいつも楽しそうにヘラヘラやってるお前とは違うんだよ!!」
『………』
いつもヘラヘラしてるわけじゃない。ナルトだって辛くて苦しい思いを僕らより沢山してきた。何も知らないのはお互いさまじゃないか。
「…だから…悲劇の主人公気取ってビービー泣いてりゃいいってか…」
黙って訊いていたナルトは不意に立ち上がった。
「お前みたいな馬鹿はずっと泣いてろ!」
吐き捨てると部屋を出ていってしまった。
あんなに怒った表情は見た事ない。それほどまで頭にきたんだ。
後を追いかけようと足を踏み出した。
「ソラ!どこいくのよ!」
『ナルトのとこ。行ってくる』
なんとなく一人にしちゃいけないと思い後を追いかけた。
『…ナルト』
「……」
無言。追いかけたはいいがその後が問題。僕じゃなくてサクラちゃんが来るべきだったかな…こんな時自分はなんて言葉を掛けたらいいのか分らない。
「…なんだってばよ」
『別になんでもない』
適当に返し隣りに腰を下ろす。
僕もナルトも口を開かず暫く沈黙が続いた。
「…俺は謝んねーからな」
『うん。知ってる』
「え?」
予想外の言葉に驚いた表情を浮かべ僕の顔を見た。
やっと僕の顔見てくれた。
『そりゃあ言い過ぎだと思うよ。相手はまだ僕らより小さいのに』
「……」
『でもナルトは間違ってないと思うから』
あくまで僕の意見だが。けど仲直りはしてほしいな。このまま任務をしていくのは嫌だ。
さて、イナリ君の所に行ってみよう。気にしてるかな…。
「……」
『ここに居たんだ』
月が映える夜、家の外で足を抱えて座り込むイナリ君を見つけた。
「お姉ちゃん…なっなんだよ!」
『別に怒りに来た訳じゃないよ。話に来ただけ』
よいしょっと隣りに座った。今夜の三日月は綺麗だ。周りの星たちも負けず綺麗に輝いてる。
月に、なんて言わない。せめて輝きを失ったモノでもいい、あの星たちの中の一つになれたら…なんて馬鹿な事考えてた。
「話ってなんだよ」
『さっきの事』
「!!」
途端にまた泣きそうな表情を浮かべる。後々誰かに責められたのだろうか。
「姉ちゃんまでまた言うのか!」
『違うって。ただ、ナルトの事悪く思わないでほしいだけ。けど本当は良い奴なんだ』
あんな事言われた後だ、無理だろうけど。僕の言う事も信じてくれないだろうな。
なんだか後ろから気配が…夜だから幽霊?いやいやまさか。信じないよ僕は。これは知ってる…。
『盗み聞きはよくないですよ。カカシ先生』
「バレてたか」
バレたというかほぼ勘だけど。あれだ、直感。
「ちょっといいかな…」
そして僕の隣りに座った。月の光だけが僕らを照らす。
「お父さんの話はタズナさんから聞いたよ」
イナリ君は顔を俯き強く膝を抱えた。
昼間聞いた破れた写真の時の話か…。
「ナルトの奴も君と同じで子供の頃から父親がいない。…というより両親を知らないんだ。それに奴には友達の一人すらいなかった」
それは聞いた事ある。疎外されてたって、詳しくは知らないが…なんたって僕には今より小さかった頃の記憶が無くアカデミーには編入したから。
「けど辛いといじけたり拗ねたりして泣いてるところは一度も見た事が無い。あいつはもう泣き飽きてるんだろうなぁ」
いつも笑ってばっかりだからそんなに辛いのを抱えてるなんて考えもしなかった。
『…ナルトはイナリ君の気持ち一番分かってるのかもね』
「え?」
『イナリ君の事、放っておけないみたいだから』
「……」
それを訊くと暗かった先程とは違う表情を浮かべた。
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