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家に入ると
一人暮らしには贅沢なくらい広い部屋だった

流石 太郎の用意してくれた家


ドキサバのあの子は真面目で大人しい子だったからか
部屋は整頓されていて
明日使う教科書の位置もすぐにわかった



転がるようにベッドに入ったけど

目を閉じても
どうしても 眠る事が出来なかった


怖いんだ
やっぱり 夢なのかもしれないと

眠ってしまったら
私は自室のベッドで目を覚ましてあのつまらない現実に戻ってしまうのではないなかと


ふと 思い出したように携帯を開く


「…あれ?」


今の時間はどう見ても夜なのに
携帯の画面の時刻は 12時05分と表示されていた

電源を落として再度つけてみてもその時刻が変わる事がない

おぼろげで覚えてないけど
確か トラックと私が追突する前に見た時刻と同じ…?



もし そうだったとして
この時計が動き出したら私は元いた世界に戻ってしまうのだろうか

どこまで私の頭はファンタジーに溢れてるの



目を閉じては起きて
起きては目を閉じてを繰り返していると


置いてあった目覚まし時計の針が漸く5時半を指していた

どうせ 寝れないんだし
散歩でもしよう


夜の散歩も考えたけど
この世界の住人ではない私が暗い道を歩いても
寂しさが増だけで

日が上ってきたばかりの暖かい道なら
そんな気持ちもなくなる



確か 朝練は7時って言ってたなぁ

散歩してから向かうには丁度いいかもしれない




外に出ると
昨日は日が落ちたあとだったからあんまりわからなかったけど

どこか 私の世界と同じで
だけど違う


朝の静けさに
心地よく吹く風



こんなのんびりと朝の散歩なんてしたことなかった

しようとさえ思った事がない


こんなに穏やかに歩きながら景色を見れるなんて
やっぱり この世界だからなのかな



前方から
袴姿で走ってくる人が見えた

朝から頑張ってるんだなと思っていると
その人は速度を緩め驚いた顔をしているのがわかり 私もその人物に驚いた


「みょうじ…なにやってんだ?」

「ひよ…し…?」


あぁ そうだ
さっきまでここは別の世界だとわかっていたのに
目の前の人物を見て再確認させられる


「トレーニング?」

「そうだ お前は…」

「散歩かな」

「…ここどこかわかってるのか?」

「え…?」

「隣町だぞ」


呆れたように言う日吉に
急いでスクバの中を漁って昨日跡部からもらった地図を探すが見つからない

その様子を見て日吉は更に溜め息をついた


「…道もわからないのに動き回るな」

「ごめんなさい…」

「……家に戻って着替えたら朝練に行く 朝練に行く気があるならついて来い」


そう言って先に歩き出す日吉の背中を慌てて追いかける

昨日から私は何をしているのだろう


それでも 日吉が優しいから
思わずにやけてしまうのは許してほしい



前を歩く日吉は
背筋は伸びていて凛々しくて
着崩れしてない紺の袴にハニーブラウンの髪が栄える



暫く歩くと大きな家が見えた
古風な平屋建ての家の扉を開けて私が入るのを待ってくれて

朝から迷惑をかけて申し訳ないと思いながら
日吉の自室に通されシャワーを浴びてくると言った日吉を待つ


男の子の部屋に入ったの初めてで
ましてやそれが日吉の部屋なんて



いろいろと漁りたい気持ちを抑えて大人しく待っていると
制服に着替えた日吉が戻ってきた


「行くぞ」


テニスバックを持った日吉の後に続くように家を出る

あまり覚えてないけど昨日の道とは違う道に
わざわざ家まで送ってくれたんだと思うとやっぱり嬉しくて


部室に着くとまだ 誰もいない
毎朝 日吉は一番乗りで練習してるのかな

そう思うと日吉のテニスへの熱の真剣さを感じる






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