[携帯モード] [URL送信]
.




「昨日は迷惑をかけてすいませんでした!今日から頑張りますのでよろしくお願いします」

「お前もう大丈夫なのか?」

「はい」


跡部に朝練は休んでいいと言われたけど
二回も休む事は気が引けて朝練に参加することにし

部室とテニスコートを走って往復していると前方から日吉が来て思わず目線を逸らしてしまった


「…お前 何にもわかってないんだな」


隣を通り過ぎた際に言われた言葉に振り返るけど
日吉はそのまま歩いていく


「……ごめん でもこれしか私出来な、いよ…」


届かない言葉は虚しく独りぼっちの私の耳に響いた

昨日の体育のあの失態までは近くにいれた筈なのに
日吉との距離は物理的なもの以外のものまで遠退いてしまったんだ




放課後 ゴミ捨てを終えて教室に向かおうとすると突然腕を引っ張られて校舎裏に連れてかれた

その人物は同じクラスの女子で
手を離されたかと思うと 壁に放り投げられた


「いった…」

「あんた 何様のつもり?」

「?」

「夏休みの間にテニス部の人達と仲良くなったからマネになってここに転校してきたとか聞いたけどさ」

「頭に乗りすぎじゃない?」


そう言うなり 一人のこの手が頬を叩いた
びっくりしてその子を見ると その子に続けて次々とお腹を蹴られたり腕を殴られたり


「なんなのよ!昨日日吉くんにお姫様抱っこで保健室に連れて行ってもらって その前なんか倉庫前でも廊下でもキスしてたでしょ!?」

「え…?」

「しらばっくれるんじゃないよ!!」


日吉とキス?
なんの事言ってるの?
だって私は日吉の彼女でもないのに

あ もしかして
ネクタイ結んでもらってた事を言ってるの?

端からみたらそう見えちゃったんだ


「忍足くんに頭撫でてもらったり 鳳くんと仲良く歩いてたり…あんたテニス部のなんなんだよ!!!」

「皆に優しくしてもらって調子こいてんじゃねーよ!」

「ぐっ…っ」


痛い 痛い 痛い 痛い

そんなとこまで見られてたんだ
そんなとこまで嫉妬しちゃうんだ


「あんたみたいなブス目障りなんだよっ!!」


やっぱり
ここでも 人に優劣をつけないといけないんだね

人間ってなんだろ
こんなに醜いものだったんだね


彼女達と同じ気持ちで あの夢に出てきた二人もきっとこうやって私の事を見下してたんだ



今目の前で起きてる原因を作ったのは私なのに
何故か客観的に見ている自分に笑える


「…じゃあ 貴女達は自分の時間も身も削ってまでなんか努力したの?綺麗な顔作って醜い心を作る努力か、な?」


私はしたよ
その努力が実ったかどうかは知らないけど

迷惑にならないように役に立つように


「ふざけんなっ」

「あんたなんか死んじまえ!」




どんくらい殴られてただろう
気が付いたらもう立ってる事も出来ずに壁に寄りかかって座り込んでた

ズキズキ痛む体のあちこちが熱を持ってて
体中が熱い


彼女達の姿はもう見えなかった

立ち上がろうにも頭がふらふらして


「……あ、め…」


ポタポタと体に落ちる雫
熱い体を冷やすには丁度いい


体はどんどん冷えていくのに その雨粒が体に当たる度に
さっきの光景が頭にぐるぐると回ってくる


「っ…たし は…ここにい る…わたしはっ…わたし…」


ガタガタ震える右手で左の袖を捲り上げる
そこには 雨で体温を奪われいつもより真っ白な細い手首


「いや…いや っ…わたしっ私は!…」


…あぁ そうだ
この体は私のものじゃなかったんだ

私はこの世界の住人じゃない
私なんかがいていい世界じゃない


ふらっと立ち上がってガラスに写った顔は
私の顔じゃない




*

あきゅろす。
無料HPエムペ!