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静かな空間の中
ふと 目を覚ますと辺りは真っ暗でどこにいるかわからなかった

焦って上半身を起こそうとするけど
力が入らず ちょっと起き上がった体はまたベッドに戻った


「…もしかして 戻って来ちゃった…の…?」


途端に涙腺が緩み
涙が滲んでくる

目から流れそうになる涙をこらえていると
遠くからドアが開く音がして
電気が着き 真っ白いカーテンが見える

仕切られたカーテンが開いた先にはテニス部のジャージの姿の日吉がいて
慌てて上半身を無理矢理起こした


「みょうじ?」

「ひよ…し…?ほんとうに…ひ……よし?」

「お前何やってんだよ!」


日吉は持ってたテニバとスクバを放り投げて私の両肩を強く掴むと大声を出した


「軽い熱中症と寝不足だって言ってたぞ どういう事だ」

「!」


よく見てみると私の着てた筈のジャージは棚の上に置いてあって慌てて手を布団の中に潜らせた


「まだ暑いのにあんな格好して…大丈夫だと思ってたのかよ!それに寝不足って…毎晩外を出歩いてたのか!?」


私が自分の世界に戻ってしまうかもしれないからと
怖くて眠らなかった事が日吉に迷惑をかけるなんて…
私 何やってるんだろ


「俺達はそんな無理をしてまでみょうじに手伝ってもらいたいなんて思ってない!」


心配してくれてる日吉は
何度も私の名字を言うけど

その名前の人物は私であって私じゃない


そんなの今更なのに
堪えてた筈の涙が零れ落ちそうになる

俯いたままの私に日吉は舌打ちをすると手を離して出て行ってしまった


「…っう」


静まり返った部屋に無造作に置かれた私のスクバが
今の私と重なる

外を見る限りもう部活は終わっている時間で
いつも着替えてから帰る日吉がジャージのまま私の元に来てくれたのに


いろんな事が頭を巡る
ついに涙は零れ 堪えてた分次々と流れ出す






「…おい まだ保健室の電気着いてんぞ 誰かいるのか?」


声が聞こえて顔をあげるとそこには跡部がいて


「…なんでみょうじがまだいんだ 日吉が迎えにきた筈じゃ…」


そう言いながら近づいてくる跡部に
慌てて涙を拭うけど 涙は止まってくれない


「お前…泣いてるのか?」

「ちが…だい…じょぶ……」

「…ほら」


いくら拭っても止まらない涙を見て
跡部はタオルを頭に被せてくれて私の視界を覆う


「何があったんだ?倒れたって聞いたぞ」

「…ったし 日吉に嫌われ……た」

「は?」

「倒れた理由 熱中症と寝不足で………怖い 怖いのっ また明日…私でいられるか わかんないから…寝るのが怖い…っ」


タオルからは汗の匂いとほんのり香水の香りがして
突然 香水の香りが強くなったと思うと何かに包まれた


「…そうか お前はお前でみょうじなまえであってみょうじなまえじゃねぇもんな」

「っ!」

「大丈夫だ お前はよくやってる 頑張ってる」

「…あと…べ…」


私はずっと
誰かにそう言ってもらいたかった


「…ねぇ 跡部…なんで人は優劣をつけないと生きていけないんだろうね」




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