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結局
偶然なんて起こらなくて

今日もバイトを終えて 電車を降りてコンビニに寄った


夜遅くに入ってしまえば店員は面倒くさがって大抵は年確なんてされなくても煙草は買えてしまう

いくら法で縛っても抜け穴はある


今日のバイトは嫌に混んで
肩も腕も疲れた

皆楽な仕事しかしないから結局残った大変な仕事を放置出来ない私は自らその仕事を率先してやるしかなくて

ストレスの捌け口の煙草をバイト後に一服しなくちゃやってられない


これだけ言うと何年も正社員で働いてる人のようだけど
今の世の中は精神の戦いだと思う



我慢出来なくて コンビニを出てすぐに煙草の封を開けて一本取り出し火をつけた

つけて一息吸うと待ってましたとばかりに煙が肺に入り少し気が楽になった気がする


歩き始めるとコンビニに入ろうとした男の人が驚いた顔をして立ち止まってるのが目に入った

コンビニの証明で照らされている顔に私の足も止まった



…なんで?
こんなとこで願っていた偶然が起こるのだろうか

こんな偶然だったら いらなかったのに


今すぐにでも立ち去りたいのに
早く目をそらしたいのに

なんで動けないの 私の足…


「…き り…はら、くん」


足より先に動いたのは口だった
恐る恐る名前を呼ぶと やっぱり名前を呼んだ人物で間違いがないようで 固まってた顔を動かした


…あぁ ついに見つかってしまったんだね

どうしよう
こんな事は想定外だったからこの後どう言い訳をしようかなんて考えてもみなかった


今までの楽しかった記憶が頭の中で走馬灯のように流れる

その生活にはもう 戻れないと脳味噌が警告でもしているかのように…


短く切った髪が風で揺れて 一瞬視界を遮った

そのまま顔を俯かせて一か八かでやっとの事で足に力を入れて走り出した


「待てよ!みょうじっ!!!」


私が走るのを見てつられたかのように切原くんが追いかけてきた

勿論 逃げ切れる訳でもなく
コンビニから離れた道端であっさりと腕を掴まれた


「…みょうじ、だよな?」


確認するように私の顔を覗き込みながら私の名前を呼ぶ人を見ると
やっぱり 切原くんで トレードマークのような髪の天パが目に入った

腕を掴まれてない右手には捨てるタイミングを失った火がついたままの煙草が煙を上げていた


「…ちょっと公園で座らないか?」


そのまま切原くんに引っ張られ近くの公園のベンチに誘導されて座らせられ
切原くんはどこかに消えた

持っていた携帯灰皿にまだつけてから時間の経ってない長いままの煙草をもったいないなと思いながら落ちつぶした


切原くんはすぐに戻ってくると
手には缶が二本あり 一本私に渡すと隣に座った


切原くんがくる前になんとかいい言い訳がないかと頭をフル回転させるが 勉強の出来ない私はこの短時間で納得出来るような言い訳は思いつかなかった


「今日さ たまたま先輩と遊んだ帰りにこの道通ってさ…」

「そ そうなんだ…」

「みょうじは?」

「私はバイト帰り…」

「そっか…」


重い沈黙
そうだよね ツッコミづらいよね

でも
なんて言えばいいのかな


まだある学校生活を楽しみたかった
けど 終わりかな


「…中学の時 いじめられててさ自分なんかどーでもよくてでも死ぬなんて怖くて汚れようと思った、病気で入院でも出来たら学校なんて通わなくていいと思ってた」


「私の両親ヘビースモーカーだったから家中煙草の匂いで小さい頃はその匂いが大嫌いだったけど 私をいじめてた人が自販機の前で喋ってた私を見て煙草吸ってるって噂流してさ」


「いじめてた人って化粧してきて家にも帰らないような不良達で学校帰りとか道端で普通に煙草吸ってるくせに私はダメなんだって思ったら馬鹿馬鹿しくて」


「貴女達はそんなに辛い事でもあるの?人を見下してるくせに…って思ったら悔しくて」


切原くんはただ 黙って私の話を聞いてくれた
昔を思い出すと目の前が少しずつ霞んできた


「…両親が居ない夜に試しに吸ってみたら最初はむせてこんなの吸うって言う神経がわかんなかった…けど 吸った瞬間体がふわふわして怠くなってでも…なんか心地よかった…」


「初めて吸ったのは中学一年、そっから一年後に一本…三年の秋には自分で買って吸うようになった いじめは最初よりも精神的に辛くて ちょっとずつ本数が増えていって…」


「…依存はしてなかったと思う吸わない日は何日もあったし でも高校に入って本数が増えたのは事実」


「別に今いじめられてる訳じゃないけど 昔の事を思い出すと辛くて…今こんなに楽しんでいいのかなって昔の自分を裏切ってる気分になるの」


一通り話し終えて 切原くんが買ってきてくれた缶のジュースを開けようとプルタブに力を込めたけど
手が震えてなかなか開かない

そんな私に気づいた切原くんはそっと缶を取るとすんなりと開けて私に渡してくれた


一瞬触れた手がやけに暖かく感じて思わず缶を落としそうになった

慌てて私は缶を持つ手に力を込めて両手で口に運んで飲んだ


キツい炭酸が追い討ちをかけるように涙腺を刺激した


「…俺はみょうじみたいな経験がないからよくわかんねぇ…けどさ それしか逃げ道がなかったんだろ?」

「…うん」

「もし みょうじが煙草じゃなくて死を選んでたら俺達会えなかっただろ」

「っ!」

「そうだとしたら 悪くねーなーって思うんだけど」


思わず切原くんの顔の方を見るとにっこりと笑ってくれていた

それは涙腺が崩壊してしまうには簡単なスイッチだった


「…っ私ね 初めて学校が楽しいって思えたよ…切原くんが私に笑いかけて話しかけてくれてっ…すごく毎日が楽しみで仕方なかった…」


私は切原くんの顔なんて見れずに俯いて必死に涙を隠した

最後の悪足掻きで 切原くんがここまで言ってくれたんだ もう充分だよね


私は立ち上がって必死に涙を拭いて笑った
切原くんの顔を直接は見れなかったけど精一杯笑った


「切原くん 今までありがとう…これからはもう私にかまんなくていいから」

「…みょうじ?」

「さようなら」

「待てよ!言うだけ言って終わりかよ!?」

「…だって」

「俺との約束忘れたのかよ!一緒に遊園地行くんだろ!?また球技大会だってあるじゃねーか!!」

「!」

「ここで終わりなんてさせねーから」




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あきゅろす。
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