永遠の愛を今、ここで
「……すまん、遅くなった。」
「いいえ、私も今来た所ですから。」
そんな初々しいカップルの決まり文句を、照れもせず未だに言い合うのは如何なものだろうか。などとどうでもいいことが頭をよぎる。あのコンクールから、もう何年経っただろう。俺達はもう社会人になっていて、…それでも関係が良好に続いているのは、俺が、こいつを好いているというのを認めることが出来たからだろう。
(…愛、が)
ずっとあったのは、知っていた。それがどの感情に基づいているのかが、俺にとって重要だった。
「玲士さん?」
久しぶりに逢えたというのに、うだうだと思考に走っていた俺を、腕組みで引き戻す小日向。こいつが幸せそうに笑うのを見ると、自然と心が温かくなるのが不思議だ。これはコンクール、いや、そのもっと前の、運命のコンクールの頃からずっとそうだ。金の弦を張った後の顔を、俺は忘れたことなどなかった。
「…ふ、」
「……ん、何を笑ってるんですか?」
「…いや、俺はどうも、お前にベタ惚れらしいと思ってな。」
スラスラとよく言えるようになったものだ。憎んでいたあの七年間では考えもしなかった台詞だろう。
私もです!
手を繋ぐ力を強くする小日向。腕を組みながら手を繋ぐだなんて、あの頃とは比べ物にならない程の変化だ。
「……あ、懐かしいですね、ここ。このホールから全てが始まって…。」
海沿いをただ歩く、というあてもないデートプラン?馬鹿を言え。故意的にこのホールの前に歩いてきたに決まっている。
(…遅刻するとは、)
思わなかったが。自分のこだわりには驚いた。それなりに緊張するものなんだなと、改めて思う。身だしなみがどうしたこうしたなど、気にしたこともなかったのに。
「…かなで。」
「はい?」
「お前に、渡す物がある。手を出せ。」
また餞別ですか?と無邪気に聞いてくる所は、学生時代と変わらない。今や小日向は、有名なヴァイオリニスト。日本に滞在している間は丸々、俺と共に過ごしてくれている。…まぁ、当然だが。
こちらを向き直し、はい、と手を出して、きょとんと待っている。…くそ、そんな呆けた顔をしていても知らんぞ。
「受け取れ。」
「わぁ、ありがとうございま…って、えっ…え?あ、あああの、こ、これって…!」
左手の薬指に、キラキラ光る、指輪。
はめるのは案外スムーズだったが、…少し気恥ずかしい。当の小日向は驚きを隠せない、といった面持ちだ。それほどに驚くことだったのだろうか、俺はそろそろ、宣言したかった。
「…、かなで。」
「は、…はい。」
「俺と、結婚…するだろう?」
瞬間、ビュウっと強い風が吹く。学生の頃より伸びた小日向の髪が、なびいた。
しかし風の音で聞こえなかった、などというそんな古典的なことはなく、愛が返ってきた。
「勿論、です!」
見上げられた瞳は、少しばかり潤んでいた。手を伸ばして俺の頬を持ち、背伸びをしながらの、キス。
(甘い、)
甘いものは嫌いだが、この甘さは嫌いじゃない。…人前だぞ、とは言わなかった。
「これでお前は、…俺の物だ。」
人が多いならばむしろ好都合。知らしめるには、その方がいい。人々にも、お前にも。
「…そして、」
「玲士、さ…」
小日向の左手を優しく持ち、微笑む。
結婚の約束、と書いて婚約。だが俺は、もっとずっと前からお前に囚われてきたんだ。
「…かなで。」
跪く、までいかなくとも、前に屈んで、薬指に口付ける。
小日向自身こうくるとは思ってなかったらしく、真っ赤だ。道行く人が見ている。
(これは、)
これから先の、…永遠の保障。俺の愛は、全てお前に。
「俺は、」
「…は、い」
屈んだ体勢のまま、目線は同じで、言っておく。誓いを込めて。
「…俺は、お前の物だ。」
-END-
(昔からずっと、そして永遠に)
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『君と過ごす夏』様に提出させて頂きました!!
結婚と婚約と迷って婚約にしました。冥加は好きだって認めたら過保護なまでに愛を注いでそうなイメージです(^^)
お題にちゃんと沿えているかは謎ですが…!
素敵な企画に参加出来て光栄です。ありがとうございました!
一条弥生
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