2 そんな騒がしい日に見た夢は、何処か不思議で、少し物悲しいものだった。 私は誰かに手を引かれたまま、見知らぬ、古びた城の中を歩いていた。 そこは薄暗く、厭に静かで……けれど、不思議と恐怖感はなくて。 (…だれだ……?) 顔の見えない相手は、軽い足取りで私を何処かへと誘う。 その雰囲気は、口許は、嬉しそう。 『――……リ…』 握られた手が、じんわりと温かい。 『今日は、何をしようか』 ふわりと優しく微笑んだ顔が、酷く、胸を貫き、 「―――……」 私は静かに、夢から目覚めた。 暫くは茫然と、無意味に投げ出されていた右手をただ眺めていて…、 だけれど、ふと、 『足りない…』 そう思ってしまった。 夢の内容なんて覚えてなどいない。 夢を見たのかすらも覚えてはいない。 そんな、寝惚けているようないないような、曖昧な思考回路。 意味不明なことを考えてしまうのも不思議ではない。 そう…寝惚けているんだ。 自分にそう言い聞かせ、鏡の中の自分を見詰め、 だけど確実に感じる違和感。 「……何故だろう…」 銀の髪に触れ、 その感覚は違う、なんて思ったりして。 「…何故………足りない…?」 訳も解らず泣き出しそうになってしまう自分が嫌で、私は洗面台に溜めた水の中へ顔を伏せた。 いったい何が足りないというのだろう。 いったい何が違うというのだろう。 解らない想いが蠢いて、苛立たしさが募るばかり。 もう考えたくない。 だが、確かな違和感に気付いてしまったら、今までの自分が何をしてきたのかも判らなくなってしまうほど、それは私の中で何かを壊し始めていて…。 〜〜♪♪ そんな時、ポケットに入れておいた携帯が突然着信を告げてきた。 僅かに焦りながらそれを操作すれば、バンドメンバーからメールが一通届いていて。 その内容は。 『やっぱギターやりたい!てことで、代わりのベース探しといて、リーダーvV』 「…は、ぁあ?!!」 さっきまでの沈んでいた自分はいったい何処へやら。 怒り心頭のままに、メールを送ってきた其奴に電話を掛ければ、相手はへらりとした声で「ギターやりてぇし」と繰り返すだけ。 終いには「よろしくね」なんて語尾にハートでも付けたような調子で通話を切りやがった。 この野郎……! 私は暫くの間、一方的に会話を終えた、今は無言の携帯を見下ろし。 「出掛けてきます…!!」 携帯に八つ当たりをしなかった自分を褒めてやりたい気分だった…。 . [*前へ][次へ#] |