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そんな騒がしい日に見た夢は、何処か不思議で、少し物悲しいものだった。
私は誰かに手を引かれたまま、見知らぬ、古びた城の中を歩いていた。
そこは薄暗く、厭に静かで……けれど、不思議と恐怖感はなくて。
(…だれだ……?)
顔の見えない相手は、軽い足取りで私を何処かへと誘う。
その雰囲気は、口許は、嬉しそう。
『――……リ…』
握られた手が、じんわりと温かい。
『今日は、何をしようか』
ふわりと優しく微笑んだ顔が、酷く、胸を貫き、
「―――……」
私は静かに、夢から目覚めた。
暫くは茫然と、無意味に投げ出されていた右手をただ眺めていて…、
だけれど、ふと、
『足りない…』
そう思ってしまった。
夢の内容なんて覚えてなどいない。
夢を見たのかすらも覚えてはいない。
そんな、寝惚けているようないないような、曖昧な思考回路。
意味不明なことを考えてしまうのも不思議ではない。
そう…寝惚けているんだ。
自分にそう言い聞かせ、鏡の中の自分を見詰め、
だけど確実に感じる違和感。
「……何故だろう…」
銀の髪に触れ、
その感覚は違う、なんて思ったりして。
「…何故………足りない…?」
訳も解らず泣き出しそうになってしまう自分が嫌で、私は洗面台に溜めた水の中へ顔を伏せた。
いったい何が足りないというのだろう。
いったい何が違うというのだろう。
解らない想いが蠢いて、苛立たしさが募るばかり。
もう考えたくない。
だが、確かな違和感に気付いてしまったら、今までの自分が何をしてきたのかも判らなくなってしまうほど、それは私の中で何かを壊し始めていて…。
〜〜♪♪
そんな時、ポケットに入れておいた携帯が突然着信を告げてきた。
僅かに焦りながらそれを操作すれば、バンドメンバーからメールが一通届いていて。
その内容は。
『やっぱギターやりたい!てことで、代わりのベース探しといて、リーダーvV』
「…は、ぁあ?!!」
さっきまでの沈んでいた自分はいったい何処へやら。
怒り心頭のままに、メールを送ってきた其奴に電話を掛ければ、相手はへらりとした声で「ギターやりてぇし」と繰り返すだけ。
終いには「よろしくね」なんて語尾にハートでも付けたような調子で通話を切りやがった。
この野郎……!
私は暫くの間、一方的に会話を終えた、今は無言の携帯を見下ろし。
「出掛けてきます…!!」
携帯に八つ当たりをしなかった自分を褒めてやりたい気分だった…。
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