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本怖のときに書いたもの
遊馬家にある割と大きめなソファーの上で横になりながら、割と大きめなテレビをぼんやりと見ている遊馬はなかなかに眠そうだった。
うつらうつらしながら、夢と現実の狭間をさ迷っているのがわかって。しかし凌牙的にはここで眠らせるわけにはいかないのだ。

「起きろ馬鹿」
「んあ……な、なななな何で電気まで消すんだよー!」
「うるせえ、聞こえねえだろうが」


今日はホラー系統の特番をやる日であり、何より一緒に見ようと誘ってきたのは遊馬のはずだ。
婆ちゃんは友達と旅行、姉ちゃんは出張取材。要はあれだった。夕飯を作ってほしいと電話が来て。
遊馬が壊滅的に料理ができないことは知っていたし、インスタントの焼きそばをお湯を切らないまま食卓に出してくるほどそういう物への知識がなく、更にバカである。ちなみにお湯を切っていないでろでろのソース焼きそばを再びフライパンで炒めて何とか食べれるようにしたせいで、料理面で凌牙が頼られるようになってしまったのだが。
それを引いても色々と借りがある、と自分で納得のいく理由をつらつらと並べて結局米を炊き味噌汁と肉じゃがを作ってしまった。
美味しそうに食べてくれたのは良いものの、どうも凌牙が洗い物をしていた間に眠くなってしまったらしく、電気を消したせいもあるのか、今にも寝てしまいそうだった。夕飯の最中に、今日やるホラー番組一緒に見ようぜとしつこく言ってきたのは誰だ。食べものを口に入れたまま喋るなと何度注意すれば…。

「寝るなよ」
「ん…なあ、シャークはこういうの平気なのか?」
「くだらねえ」

フン、と鼻を鳴らした凌牙に対抗意識を燃やしたのか、先程までの怯えた様子とは打って変わって「俺も全然平気だし、普段からアストラル見てるし」と皇の鍵を握りしめながら言う遊馬に吹き出しそうになった。
暗闇の中、テレビの光だけが部屋を照らしている。とは言っても、テレビに映っている映像は薄暗いものばかりで、部屋もたいして明るくはならない。


怖くない上に退屈だ。凌牙は先程から黙ったままの遊馬に視線を映した。案の定寝ている。
ため息をつくとテレビを消し、遊馬の部屋に行きブランケットを取ってきてかけてやった。すっかり暗闇に目が慣れてしまって電気を付ける気が起きない。
もう一度ソファーに座ると、すやすやと寝息を立てている遊馬の顔に恐る恐る顔を近づけてみる。
――アホ面だ。
自分のしようとしたことに後悔と自己嫌悪が襲う。何考えてんだか。真っすぐすぎて、まぶしすぎて、時折ぐちゃぐちゃにしてやりたいと思うのに、こんなにもこのアホ面を守りたいと思ってしまうのは何故なんだろう。本当に、不思議だ。幽霊の存在なんかよりずっと。ずっと不思議で、ずっと愛しい。


あきゅろす。
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