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君の言葉を
『カイトおはよう!今日は雨だな、お前雨でも飛んで移動すんの?』
『今日もデュエルでかっとビングしたぜ!俺も最近強くなった…はず!次はお前にも勝つからな!』
『今日のデュエル飯はなんとしゃけ入り!しゃけ召喚!』

ハルトを探し出す為に番号を教えた次の日のことだった。メールが、来ていたのだ。しかもどうでもいいことばかりが書いてあり、とても返信する気にはならない。ただ、遊馬からメールが届くのも、届いたメールを読むのも、正直に言うと嬉しかった。
自分とは全く違う平凡な環境での生活を垣間見れるのはなかなか楽しい。
仕事の合間に遊馬からのメールをチェックするのが習慣になっていった。こちらが返信を一切しなかろうが、一日に一回は必ずメールが来た。なぜ、こうも自分に構うのだろう。考えても、遊馬の気持ちなんてわかりそうにもなかった。真っすぐすぎる彼の気持ちなんて、ねじまがった自分にわかるわけがないのだ。

『うわあああホープ奈落で落とされた!!負けた(涙)』
『カイトとデュエルしたいなあ。でもナンバーズ狩られるのは困る!』
『アストラルがさ、エスパーロビン知ってるかカイトに聞けってうるさいんだよ。知ってる?あの、特撮のやつ』

そんなメールを最後に、遊馬からメールが来なくなって一週間。一体全体どうしたというのだろうか。何かに巻き込まれているのか、それともメールを送るのに飽きたか。病気や怪我ということも考えられる。
さあ、どうしたものか。考えながらテレビを点けると、エスパーロビンが仲間たちと共に戦っていた。国民的に人気なそれを、知っているには知っていたが、見たことはなかった。別に、メールの話題作りのためだけに見ているわけではない。たまたまテレビを点けたらやっていただけだ。そう自分に言い聞かせて、無駄な時間を過ごしてみることにした。








休み時間、遊馬はソワソワとした様子で小鳥の席に近づいていった。手にはいつカイトから返事が来ても即座に返信ができるようDゲイザーが握られている。友達と談笑していた小鳥を廊下に連れ出し、恥を忍んで相談を持ち掛けることにした。

「なあ小鳥、メールに返信しないときってあるか?」

わざわざ廊下に連れ出されたのだから、何か深刻な問題でも起きたのだろうかと懸念していた小鳥は呆れようにため息をついた。
「もおー…なによ、いきなり」
「いいからさ」

遊馬が焦っているのは意外だった。メールの返事が無ければ電話、電話に出なければ会いに行く、そういう人間なのだから、それが通用しない、またはできない相手でもいるのかもしれない。
確かに遊馬にとっては深刻な問題なのかもしれないと、彼の真剣な表情を見て小鳥は思い直した。
「やっぱり、忙しいときかしら。でも、どうして?」
「返事が来ないんだ」
そりゃあそうだ。返信が来なかったからこそ相談をされているのだから。それにしても、遊馬がメールを送っても返信をしない人なんているのだろうか。そんな人はいないはず、と思ったところで脳裏にシャークが浮かんで納得する。
「もしかして、宛先間違えてるんじゃないの?」
「遊馬ならありえるな」
「アストラルまで…間違ってねーって!!」
「じゃあどんなの送ったのよ」
「こんなの…」
そう言って遊馬は送信BOXを小鳥に見せた。ズラリと並ぶ天城カイトの文字。シャークじゃなかった、シャークより返信しなさそうな人だった。
「これ…カイト宛てじゃない!しかもこんなにたくさん!」
よく見れば遊馬は健気にも一日に一回は必ずメールを送っている。なぜそうまでしてカイトとメールでコミュニケーションを取ろうとしているのか小鳥には理解できなかった。
「こんなに送っても返事が来ないんです…」
涙ぐんでいる。遊馬はカイトからの返事が来ないことが悲しいのだ。おのれカイトめ。遊馬にタッグデュエルでダメージ与えただけでは飽きたらずたかがメールごときで遊馬を泣かせようとするなんて。タッグデュエルといえば、あのときカイトが連れていたロボットが何か言っていた気がする。確か

『カイトさまはああいうお方でして…』


「遊馬、しばらく放置!」
「え、なんで?」
「一通送って返事が無いなら何回も送っていいけど、こんなに送ってるんだから、あとはほっとくの」
「それで返事が来なかったら?」
「そうしたらまた送ってみて、様子を見る」
「わかった、やってみる!サンキュな!」

ああいうお方なら、余計この作戦が聞くはずだ。毎日引っ切りなしに続いていたものが途切れれば、心配しそうではないか。そして今まで返信してこなかったことを後悔するのではないだろうか。

「返信、来るといいわね」
「ああ!」





『エスパーロビン、演出のクオリティが高い。奥平風也の演技力もなかなかだった』
もう一度、読み返す。もう一度、もう一度。
カイトから、返信が来たのだ。押してだめなら引いてみろとはよく言ったもので、メールを送ることをやめてから一週間でこんな奇跡のようなことが起きた。
ただ、この先どうしたらいいのかわからない。ここで即座に返事をすれば、またメールが来なくなるかもしれないし、かといって返事をわざと遅らせるなんてことを、遊馬はしたくなかった。
よし、返信しよう。覚悟を決めてメールを打ち込み、送信する。
『返事ありがとな。嬉しかった』
こんなことを言ったら、もう二度と返信してくれないかもしれないけど、それでもこれだけは伝えたかった。
エスパーロビンを見てくれたことも、返信をしてくれたことも、嬉しくて嬉しくて。
『メールくらいならしてやるから、急に一週間も空けるな』
してやる、だなんて。あまりにも彼らしい言葉に笑ってしまった。どんなにぶっきらぼうな言葉でも、何も言ってくれないことに比べたら、伝わるものがあるのだ。
伝わっているだろうか、たかだかメール一つで舞い上がってしまうくらい、お前のことが好きだということは。


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